327 / 369
第26章 Missing heart
5
しおりを挟む
「仕方なかったんだ。俺が意識を取り戻した時には、そこはもう俺の全く知らない土地で、気付いた時には、俺の知らない所で、俺は死んだことになっていて……」
頭を抱え込んだ松下の顔に、苦悶に満ちた色が濃く浮かぶ。
「どういうことだ」
事故直後、意識の無い状態で別の場所に移送された、ってのは分からないでもない。
寧ろ考えられる話だ。
でも死んだことにされていたってのは、どうにも理解しがたい。
そうまでして智樹の前から姿を消さなきゃいけない理由が?
余程険しい顔をしていたんだろうな、松下が緩く首を振ってからフッと息を吐き出し、天を仰いだ。
「俺の親ってさ、けっこう有名なデザイナーなんだよね。そんな親が、一人息子の恋人が男だったなんて知ったら、どう思うと思う?」
松下が有名デザイナーの息子であることは、殿様探偵からの調査報告書にも書いてあった。
その親が、息子と智樹との関係を知ったとしたら……
「嘘、だろ? まさかそんなこと……」
「流石、一流大学出てるだけあるね、勘がいい。そのまさかだよ。俺の両親はスキャンダルになるのを避けるために、俺を死んだことにしたんだ」
いくらスキャンダルを恐れたからって、息子を我が身の保身のために利用するなんて、そんなことがあっていいのか……
「馬鹿げてる。そんなことのために智樹は……」
「ああ、馬鹿げてるよ。だから俺は自分が死んだことにされてるって知った時、真っ先に智樹のことを考えた。でも俺が事故以前に使っていた携帯は既に解約されていたし、何より遠い異国の地ではどうすることも出来なかった」
感情の昂りを抑えられないのか、幅の狭い机の上で握った松下の拳はやり場のない憤りに震え、俄に充血した目には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「それで、その後は? どうやって智樹が俺の所にいることを知った?」
俺が知りうる限り、智樹が松下の元へ行くまでの間、二人に接点はなかった筈だ。
いや、俺が知らないだけで、現実にはあったのかもしれない。
ただ、俺もそれを智樹に問いただしたこともないし、仮に問いただしたとしても、あの智樹がそう簡単に口を割ることは、まず有り得ない。
尤も、智樹の使っていたスマホを見れば、一目瞭然なのかもしれないが、今はまだその勇気は俺にはねぇ……
頭を抱え込んだ松下の顔に、苦悶に満ちた色が濃く浮かぶ。
「どういうことだ」
事故直後、意識の無い状態で別の場所に移送された、ってのは分からないでもない。
寧ろ考えられる話だ。
でも死んだことにされていたってのは、どうにも理解しがたい。
そうまでして智樹の前から姿を消さなきゃいけない理由が?
余程険しい顔をしていたんだろうな、松下が緩く首を振ってからフッと息を吐き出し、天を仰いだ。
「俺の親ってさ、けっこう有名なデザイナーなんだよね。そんな親が、一人息子の恋人が男だったなんて知ったら、どう思うと思う?」
松下が有名デザイナーの息子であることは、殿様探偵からの調査報告書にも書いてあった。
その親が、息子と智樹との関係を知ったとしたら……
「嘘、だろ? まさかそんなこと……」
「流石、一流大学出てるだけあるね、勘がいい。そのまさかだよ。俺の両親はスキャンダルになるのを避けるために、俺を死んだことにしたんだ」
いくらスキャンダルを恐れたからって、息子を我が身の保身のために利用するなんて、そんなことがあっていいのか……
「馬鹿げてる。そんなことのために智樹は……」
「ああ、馬鹿げてるよ。だから俺は自分が死んだことにされてるって知った時、真っ先に智樹のことを考えた。でも俺が事故以前に使っていた携帯は既に解約されていたし、何より遠い異国の地ではどうすることも出来なかった」
感情の昂りを抑えられないのか、幅の狭い机の上で握った松下の拳はやり場のない憤りに震え、俄に充血した目には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「それで、その後は? どうやって智樹が俺の所にいることを知った?」
俺が知りうる限り、智樹が松下の元へ行くまでの間、二人に接点はなかった筈だ。
いや、俺が知らないだけで、現実にはあったのかもしれない。
ただ、俺もそれを智樹に問いただしたこともないし、仮に問いただしたとしても、あの智樹がそう簡単に口を割ることは、まず有り得ない。
尤も、智樹の使っていたスマホを見れば、一目瞭然なのかもしれないが、今はまだその勇気は俺にはねぇ……
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる