愛玩人形

第５章 妬心…

３

　「智子‥…」

　僕は堪らず智子に駆け寄り、その小さく震える肩を抱き寄せた。

　「兄さま、智子ね、本当はお嫁になんか行きたくないの……」

　僕の胸に顔を埋め、智子が声を震わせる。


　ああ……、なんて可哀想に……
　出来る事なら僕がここから連れ出してしまいたいのに。


　でも、悔しいけれど今の僕にそんな力はない。

　「さあ、もうそんなに泣かないでおくれ。可愛いお顔が台無しだ。それに、父様だって今すぐに智子をお嫁に行かせるつもりではないだろうし……」

　智子はまだ十三になったばかりの、恋がどんな物かも知らない、幼い娘だ。
　そんな智子をお嫁になんて……

　僕は智子の長い髪を指で梳きながら、そっと背中を摩った。すると智子は僕の旨に顔を埋めたまま、首を横に振った。

　「違うの。そうじゃないの。智子、潤一先生好き。 でも、智子の秘密を知ったら、きっと嫌われるわ……」

　潤一が好き……、その一言が、僕の胸に深く突き刺さる。

　「それに兄さまだって……」
　「僕……？　僕が智子を嫌いになると……？」

　僕の胸に顔を埋めたまま、智子が小さく頷き、大粒の涙で潤んだ目で、僕を見上げた。

　「何を言っているんだい、 僕が智子を嫌いになるなんてこと、あるわけがないだろ？」

　智子の言う秘密が何なのかは……知らない。
　でもそれを知ったからと言って、僕の智子を愛する気持ちが消えて無くなることなんて、絶対にない自身を持って言える。

　「本当？　兄さまは本当の智子を知っても、嫌いになったりしない？」
　「勿論だよ」

　力強く答えると、小さな身体を抱き締めた手に力を込めた。