愛玩人形

誠奈

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第7章   哀傷…

17

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 黙りこくったまま動けずにいる僕に、コツコツと踵が床を蹴る音が近付いてくる。

 母様と同じ音で……
 そして白い指の先を赤く染めた爪が僕の頬に触れ、毒々しいまでの赤い唇が僕を捕らえようとする。

 「いけないよ、智子……」


 一体どうしてしまったと言うんだ……


 さっきまでとは、見た目は勿論のこと、纏っている雰囲気まで違って見える智子に、僕は動揺を隠しきれない。

 「あら、さっきは兄さまの方からキッスをして下さったのに?」

 僕の頬から滑らせた手で、僕の唇の輪郭をなぞるように撫でる。
 
 「や、やめるんだ智子……」

 僕はその細い手首を掴み、僕の身体に密着するように擦り寄せて来る小さな肩を押した。

 「キャッ……」

 僕が突き飛ばした反動なのか、智子が小さな悲鳴を上げて床に倒れる。

 「す、済まない、智子。怪我は……」
 「触らないで……、私に触らないで……」

 智子の一言が、僕の胸に刃を立てる。
 それは僕が初めて受けた、智子からの拒絶の言葉だった。

 「ど、どうして……? そんな悲しいことを言わないでおくれよ……」


 智子に嫌われたら僕は、この先どうして生きていけば良いのか……


 「兄さまも同じなのね。智子を……、私を……厭らしい目で見てらしたのね?」
 「違う、僕は……」

 智子をそんな風に見たことは、一度だってない。

 「じゃあどうして? どうして私の名前を呼びながらあんなこと……」
 「そ、それは……」

 愛しているから……。
 智子を心の底から愛しているから、だから……


 「穢らわしい……」

 智子の蛇のような冷たい目が僕を見上げる。


 母様と良く似た、能面のような顔で……
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