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第10章 傀儡…
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初めて……だった。
母様の愛を感じだったのは、初めてのことだった。
いつまでもこの温もりに浸っていたい……とさえ感じた。
でもその時、階下が俄に騒がしくなり、開け放った部屋の扉から、きな臭い匂いが部屋に流れ込んで来た。
「母様、まさか……」
僕はゆっくり顔を上げ、首を震わせながら母様を見た。
「さあ、もう時間がないわ。お行きなさい」
僕達を抱いていた母様の手がゆっくりと解かれる。
すると智子が僕の腕から抜け出し、僕達から離れて行こうとする母様の足に追い縋った。
「いやよ、いやっ……。母さまも一緒に……」
「それは出来ないわ、智子……。智子が翔真を愛しているように、私も父様を愛しているの」
母様が智子の目線の高さまで膝を折り、栗色の巻き髪を指で梳く。
それは愛おしそうに……
「智子……私の娘……。こんな身体に産んでしまった私を許して頂戴」
そうか……だから母様は智子を誰の目にも触れさせることなく、絶えず自分の手元に……。
そうやって母様は智子を守って来たんだ……。
我が子に辛く当たるのは、どれ程苦しかったことか……
その心中を察すると、胸が苦しくなる。
「智子? 元気な赤ちゃんを産むのよ?」
父様の血なのか何なのか、赤く染まった指先が智子の腹を撫でる。
「無理よ……、智子怖いっ……」
「何を言ってるの? 智子には翔真がいるでしょ? それに潤一先生だって……。大丈夫、安心なさい?」
「母……さま……。智子、母さまが大好きよ? だから智子、母さまのようなお母さんになりたい……」
泣き顔に、凛とした笑を浮かべ、腹に触れた母様の手に自分の手を重ねる。
母様の手が離れて行かないように……
でも母様は簡単に手を抜き取ると、智子の小さな身体を押し退けると、すっと立ち上がって、氷のような目で智子を見下ろした。
母様の愛を感じだったのは、初めてのことだった。
いつまでもこの温もりに浸っていたい……とさえ感じた。
でもその時、階下が俄に騒がしくなり、開け放った部屋の扉から、きな臭い匂いが部屋に流れ込んで来た。
「母様、まさか……」
僕はゆっくり顔を上げ、首を震わせながら母様を見た。
「さあ、もう時間がないわ。お行きなさい」
僕達を抱いていた母様の手がゆっくりと解かれる。
すると智子が僕の腕から抜け出し、僕達から離れて行こうとする母様の足に追い縋った。
「いやよ、いやっ……。母さまも一緒に……」
「それは出来ないわ、智子……。智子が翔真を愛しているように、私も父様を愛しているの」
母様が智子の目線の高さまで膝を折り、栗色の巻き髪を指で梳く。
それは愛おしそうに……
「智子……私の娘……。こんな身体に産んでしまった私を許して頂戴」
そうか……だから母様は智子を誰の目にも触れさせることなく、絶えず自分の手元に……。
そうやって母様は智子を守って来たんだ……。
我が子に辛く当たるのは、どれ程苦しかったことか……
その心中を察すると、胸が苦しくなる。
「智子? 元気な赤ちゃんを産むのよ?」
父様の血なのか何なのか、赤く染まった指先が智子の腹を撫でる。
「無理よ……、智子怖いっ……」
「何を言ってるの? 智子には翔真がいるでしょ? それに潤一先生だって……。大丈夫、安心なさい?」
「母……さま……。智子、母さまが大好きよ? だから智子、母さまのようなお母さんになりたい……」
泣き顔に、凛とした笑を浮かべ、腹に触れた母様の手に自分の手を重ねる。
母様の手が離れて行かないように……
でも母様は簡単に手を抜き取ると、智子の小さな身体を押し退けると、すっと立ち上がって、氷のような目で智子を見下ろした。
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