愛玩人形

誠奈

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第10章   傀儡…

15

 初めて……だった。
 母様の愛を感じだったのは、初めてのことだった。

 いつまでもこの温もりに浸っていたい……とさえ感じた。

 でもその時、階下が俄に騒がしくなり、開け放った部屋の扉から、きな臭い匂いが部屋に流れ込んで来た。

「母様、まさか……」

 僕はゆっくり顔を上げ、首を震わせながら母様を見た。

「さあ、もう時間がないわ。お行きなさい」

 僕達を抱いていた母様の手がゆっくりと解かれる。
 すると智子が僕の腕から抜け出し、僕達から離れて行こうとする母様の足に追い縋った。

「いやよ、いやっ……。母さまも一緒に……」
「それは出来ないわ、智子……。智子が翔真を愛しているように、私も父様を愛しているの」

 母様が智子の目線の高さまで膝を折り、栗色の巻き髪を指で梳く。

 それは愛おしそうに……

「智子……私の娘……。こんな身体に産んでしまった私を許して頂戴」


 そうか……だから母様は智子を誰の目にも触れさせることなく、絶えず自分の手元に……。
 そうやって母様は智子を守って来たんだ……。

 我が子に辛く当たるのは、どれ程苦しかったことか……

 その心中を察すると、胸が苦しくなる。


「智子? 元気な赤ちゃんを産むのよ?」

 父様の血なのか何なのか、赤く染まった指先が智子の腹を撫でる。

「無理よ……、智子怖いっ……」

「何を言ってるの? 智子には翔真がいるでしょ? それに潤一先生だって……。大丈夫、安心なさい?」
「母……さま……。智子、母さまが大好きよ? だから智子、母さまのようなお母さんになりたい……」

 泣き顔に、凛とした笑を浮かべ、腹に触れた母様の手に自分の手を重ねる。

 母様の手が離れて行かないように……

 でも母様は簡単に手を抜き取ると、智子の小さな身体を押し退けると、すっと立ち上がって、氷のような目で智子を見下ろした。
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