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翔真の淹れてくれたコーヒーは、昔と変わらず苦さばかりが口に広がって……
「相変わらず不味いな」
思わず本音を漏らした俺に、翔真は責める訳でもなく、ただ苦笑だけを浮かべている。
「でも‥…、落ち着く」
「そっか、なら良かった」
俺は両手でカップを包み込むと、苦味しか感じないコーヒーを更に一口啜り、カップをテーブルへと戻した。
それをきっかけに、俺達の間に沈黙が流れる。
誘われるまま翔真の部屋まで来てしまったけど、正直何を話したら良いのか…分からない。
俺は再びカップを手に取ると、カップの中で揺れる黒い液体に視線を落とした。
そして、やっとの思い出固く閉ざしていた口を開いた。
「どうして俺に声を……?」
別れてから数年経っているとはいえ、気まずさが無いわけじゃないだろうに……
「別に、特に理由はないよ? ただ……」
「ただ?」
聞き返した俺に、翔真はゆっくり瞼を伏せ、首を横に振った。
「いや、何でもない。ただ、君とは一度ゆっくり話をしたかったから」
「そっか……」
今更話すことなんてない、そう否定出来れば良かった。
でもそうしなかったのは……いや、出来なかったのは、俺も翔真と同じ気持ちだったからなのかもしれない。
「あれから……」
そう言ったきり、先の言葉を躊躇うかのように翔真が口を紡ぎ、視線を胡座をかいた膝に落とした。
その様子に、翔真が何を言いたいのかを察した俺は、一瞬天を仰いだ後に、視線を俯いたままの翔真に向けた。
「翔真と別れてから、他の人とも付き合ったよ……」
「そう……なんだ?」
「うん。でも俺はやっぱり……」
「やっぱり……、何?」
言い籠もる俺の手に、翔真の手が重なった。
俺は咄嗟にその手を払おうとしたけど、俺が思う以上に翔真の力は強くて……
「言って?」
再度答えを促され、俺は思わずゴクリと息をのんだ。
「俺は今でもお前のことが……」
忘れられない……そう言おうとした瞬間、突然目の前がグニャリと歪んだような気がして、
「えっ……、なん……だ……、これ……」
目頭を抑えては、何度も瞬きを繰り返すけど、歪んだ視界が元に戻るどころか、余計にその歪さを増すばかりで……
「しょ……ぉ……ま……」
声を出そうにも、乾いている筈も無い喉が引き攣れるように痛くて…
「しょ……ぉ……ま、おま……え……」
徐々に霞んで行く視界と、遠くなって行く意識の中で、俺は俺の手首を掴んで離さない翔真の手を振り解いた。
「馬鹿だね、智樹は。今頃本当の気持ちに気付いたってもう遅いのに……」
翔真のその言葉を最後に、俺は残っていた意識の全てを手放した。
「相変わらず不味いな」
思わず本音を漏らした俺に、翔真は責める訳でもなく、ただ苦笑だけを浮かべている。
「でも‥…、落ち着く」
「そっか、なら良かった」
俺は両手でカップを包み込むと、苦味しか感じないコーヒーを更に一口啜り、カップをテーブルへと戻した。
それをきっかけに、俺達の間に沈黙が流れる。
誘われるまま翔真の部屋まで来てしまったけど、正直何を話したら良いのか…分からない。
俺は再びカップを手に取ると、カップの中で揺れる黒い液体に視線を落とした。
そして、やっとの思い出固く閉ざしていた口を開いた。
「どうして俺に声を……?」
別れてから数年経っているとはいえ、気まずさが無いわけじゃないだろうに……
「別に、特に理由はないよ? ただ……」
「ただ?」
聞き返した俺に、翔真はゆっくり瞼を伏せ、首を横に振った。
「いや、何でもない。ただ、君とは一度ゆっくり話をしたかったから」
「そっか……」
今更話すことなんてない、そう否定出来れば良かった。
でもそうしなかったのは……いや、出来なかったのは、俺も翔真と同じ気持ちだったからなのかもしれない。
「あれから……」
そう言ったきり、先の言葉を躊躇うかのように翔真が口を紡ぎ、視線を胡座をかいた膝に落とした。
その様子に、翔真が何を言いたいのかを察した俺は、一瞬天を仰いだ後に、視線を俯いたままの翔真に向けた。
「翔真と別れてから、他の人とも付き合ったよ……」
「そう……なんだ?」
「うん。でも俺はやっぱり……」
「やっぱり……、何?」
言い籠もる俺の手に、翔真の手が重なった。
俺は咄嗟にその手を払おうとしたけど、俺が思う以上に翔真の力は強くて……
「言って?」
再度答えを促され、俺は思わずゴクリと息をのんだ。
「俺は今でもお前のことが……」
忘れられない……そう言おうとした瞬間、突然目の前がグニャリと歪んだような気がして、
「えっ……、なん……だ……、これ……」
目頭を抑えては、何度も瞬きを繰り返すけど、歪んだ視界が元に戻るどころか、余計にその歪さを増すばかりで……
「しょ……ぉ……ま……」
声を出そうにも、乾いている筈も無い喉が引き攣れるように痛くて…
「しょ……ぉ……ま、おま……え……」
徐々に霞んで行く視界と、遠くなって行く意識の中で、俺は俺の手首を掴んで離さない翔真の手を振り解いた。
「馬鹿だね、智樹は。今頃本当の気持ちに気付いたってもう遅いのに……」
翔真のその言葉を最後に、俺は残っていた意識の全てを手放した。
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