ＲｏｏｍＮｕｎｍｂｅｒ「０００」

第３章 ００３

１

　岸本優作三五歳、独身。

　つい一ヶ月程前、約十五年間勤めた会社を辞め、現在は無職。

　会社を辞めた理由は、首切り……所謂〝リストラ〟で、勤務態度も至って真面目な上に本人に落ち度もなく、ただ人員削減のためだけに突然下された辞令を、岸本は抗議一つすることなく、素直に受け入れた。

　そもそも岸本自身、仕事に興味もなければ、ただただ惰性の如く繰り返される毎日に退屈さを感じていたのだから、ある意味好都合だったとも言えるだろう。

　僅かばかりの退職金を手にした岸本は、暫く自由な生活を満喫して、それからゆっくりバイトでも探せば良いと考えていた。

　ところが、だ。

「岸本優作さん……、ですよね？」
「は、はあ……、そうですけど、アンタは……？」

　突然見ず知らずの男に声をかけられ、あからさまに不信感を顕にする岸本だが、翔真はそれに構うことなく岸本の腕を掴んだ。

「ちょっと付き合って貰えません？」

　普段は割と高めの声を低くし、サングラス越しに睨みをきかせる。

　当然、何のことだか分からない岸本は、自分の腕を掴みむ翔真の手を振り解こうと抵抗を試みるが、翔真も負けてはいない。

　強引に岸本の手を引っ張ると、まるで引き摺るかのようにして、智樹の待つ車に向かって歩を進めた。

　が……

「お、おい……、何すんだよ……、だ、誰か……」

　尚も抵抗し、声を上げようとするから、流石の翔真も焦らずにはいられない。

　チッ、と舌打ちをした翔真は、咄嗟にポケットから取り出したハンカチで岸本の口を塞いだ。
　出来れば乱暴な行為は避けたかったことだか、騒ぎを起こされては計画が頓挫する可能性を考えてのことだった。