雪・月・華 ー白き魂ー

第一章 ー雪ー

二

　暫くの間辺りに興味を巡らせていると、漸く扉が開いた。

　しかしそこから出て来たのは、鳶とんびコートの男ではなく、絣の着物に白い前掛け姿の女で、女は少年を一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。

「お前、名前は？」

　腰に両手を当て、威圧感たっぷりに尋ねられ、少年は思わず姿勢を正した。

「じゅ、潤一……松下潤一、です」

　得もしれぬ緊張感に、思わず潤一の声が震えた。

「潤一ね。で、歳は？」
「十二になりました」

　それでもしっかりとした口調で答えると、潤一はその小さな身体を折り、地面に着く程深く頭を下げた。

「余計な挨拶は無用だ。私は女中頭の照。さあ、私に着いて来るんだ」

　キツイ口調で言い放ち、踵を返し早足で歩を進め始めた照の後ろを、草履履きの小さな足で追いかける。

　途中何度も〝おじさんは……〟と言いかけたが、その度に照の冷たい目に見下ろされ、潤一はその先の言葉を飲み込んだ。

　照の後に着いて西洋風の建物をグルリと回り、手入れの行き届いた庭を通り抜けると、そこに西洋風の建物とは比べ物にならない、粗末な造りの建物が見えてきた。