Jelly Fish

誠奈

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 その日俺は今までの人生で、一番最悪な日を迎えた。

 付き合ってた彼女に、物の見事に振られたんだ。

 五年だ。
 五年も付き合ってれば、大抵の男は結婚を意識するだろう。

 俺もそう。
 彼女と結婚したいと思っていた。

 少々値は張ったが、彼女に贈るための婚約指輪だって、世の女子に人気の高級ジュエリーショップで購入した。


 漸く訪れたプロポーズのタイミング、場所は偶然にも2人が出会った思い出の海岸だ。


 この時を逃したら、もう後はない…


 俺は意気込んで彼女に自分の気持ちを伝えたよ、恋愛ドラマみたく小さなケースを差し出しながら、「俺と結婚してくれないか?」って。

 言い切った途端、急にえも知れぬ緊張感が襲ってきた。


 ドキドキ、ドキドキ……


 俺の心臓は、ぶっ壊れるんじゃないかってぐらい暴れていた。

 「私……」

 彼女がポツリと呟いた。
 期待に胸を膨らませていた俺は、大きく頷き、クリと唾を飲み込んだ。

 「私、あなたと結婚は考えられないの」


 一瞬の沈黙……


 さっきまで大暴れしていた俺の心臓も、ちゃんと動いてるのかすら分からない程、大人しくなった。


 えっ、なんで……?


 問いただすよりも前に返ってきた言葉は、「ごめんなさい。他の人と幸せになって?」だった。

 五年もの歳月を費やして育んできた俺達の関係は、彼女のたった一言で呆気なく終わりを告げ、傷心のまま、一人寂しく波打ち際を歩いた。
 季節的に人影も疎で助かった、ってのは本音。


 だって恥ずかしいじゃん、三十路男が女に振られて一人涙を流す、なんてさ……、格好悪いよ……


 俺は溜息をつくと同時に、どこからか流れ着いた流木に腰を下ろした。結局蓋を開ける行為すらされなかった小さな箱は、まだ俺のポケットの中だ。

 「捨てちゃおっかな……」

 ポケットから箱を取り出し、蓋を開けた。
 プラチナの台座に、申し訳なさそうにくっ付いた小粒の石がキラキラ光る。


 ちっちゃくってもコレ、一応ダイヤモンドなんだよな……


 そう思ったら、捨ててしまうのがなんだか急に惜しくなった。


 いずれまた役に立つ時が来るかもしれないか……


 使い回しなんて失礼な話かも知んないけど、何しろまだコイツにはたんまりローンが残ってる。流石に捨ててしまうには惜しい。
 溜息と同時に蓋を閉め、再びそれをポケットに捩じ込んだ。


 いつまでもここにいたって仕方がない……


 重い腰を上げ、ズボンの砂を払った。
 その時、ふと上げた視線の先に、人影…らしきモノを見つけた俺は、波打ち際まで駆け寄り、目を凝らした。

 茜色に染まった海面に浮いていたのは、紛れもなく人間で……


 えっ、嘘だろ?
 いくらなんでもまだ海水浴をするには充分早すぎるだろ!


 「おーい、何やってんの! おいって……!」

 声の限り叫ぶが、その声は打ち寄せる波に、いとも簡単にかき消されてしまう。

 焦れた俺は、靴を脱ぎ捨て、服が濡れるのも構わず、冷たい水の中に飛び込んだ。
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