君の声が聞きたくて

誠奈

文字の大きさ
76 / 337
第10章  trill

しおりを挟む
 「あれ? リモコン、分からなかった?」

 トイレから戻って来た桜木さんが、ドカッとソファに胡座をかいて、リモコンを手にする。そして、俺が押したのとは違うボタンを押した。
 テレビのスイッチが入り、堅苦しいスーツ姿のニュースキャスターが画面に映る。


 そっか、俺が押したのはDVDプレーヤーの電源だったのか。だから、あんな映像が……
 それにしたって驚きだったけど……


 その証拠に、腹は空いてる筈なのに、目の前にある弁当は一向に減る気配がない。


 それに気付いた桜木さんが、「どうしたの? もうお腹いっぱい?」って俺を覗き込んで来るけど、返事なんて出来る筈もなくて……

 それでも桜木さんが気にするからと、魚のフライを頬張ってはみたけど、どうしても飲み込むことが出来なくて、結局缶に残っていたビールで流し込んでから、弁当に蓋をした。

 ポケットからスマホを取り出すと、思った以上に充電が減ってるのに気付いて、ガキ大将みたく弁当を掻っ込む桜木さんのシャツの袖を引いて、紙とペンを貸して欲しいと訴えた。

 「これで良い?」

 差し出されたメモ用紙とペンを受け取り、何も書いていない用紙にペンを走らせる……けど、なんて聞いたら良いのか分からなくて、手が途中で止まってしまう。


 やっぱりストレートに聞くべき……なのか?
 それとも何枚も重ねたオブラートに包むべき?


 俺は迷った結果、間違ってDVDプレイヤーの電源を入れてしまったこと、そしてDVDを見てしまったことを伝えた。
 桜木さんは、一瞬困ったような、焦ったような……、複雑な様子を見せたけど、すぐに真面目な顔をしたかと思うと、弁当のパックの上に箸を揃えて置いてから、俺の方に身体ごと向けて座り直した。

 「松下から借りたんだ……って言うか、正直に言えば押し付けられたんだけどね……」


 潤一さんが……?


 「俺……さ、女性とは勿論経験あるけど、男性とは……その、初めてっつーか……」


 知ってるよ。寧ろ、男性との経験がない方が、世間で言う普通なんだってことも……


 「松下に聞かれたんだ……、どうしたいんだって……」


 それは、《抱きたい》のか《抱かれたいのか》ってってこと?


 「流石に答えに困ってね……」


 だろうね……


 《抱く》にしろ《抱かれる》にしろ、元々ノンケの人にしてみれば、相当な覚悟が必要だし、よっぽど強く相手のことを想ってなきゃ、中々一歩を踏み出すのは難しいと思う。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

処理中です...