君の声が聞きたくて

誠奈

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第10章  trill

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 これで良いかな……


 さっきより目に見える床面積に満足して汗を拭った俺の首筋に、ヒンヤリと冷たい物が当てられる。

 「お疲れ様。弁当、温め直したから食お?」

 いつの間に用意してくれたのか、ローテーブルの上に弁当のパックが並べられている。


 つか、冷てぇ……


 俺は肩を竦ませながら、桜木さんと並んでソファに座った。

 二人で同時に手を合わせ、同時に箸で弁当を突っつく。

 「うんめっ!」

 食べてる時の桜木さんは、本当に幸せそうな顔をするから、俺もつい釣られてしまう。

 「あ、テレビつけてくれる?」

 あっという間に空になったビールの缶を手に、キッチンに入った桜木さんが言う。

 「ほら、一応営業職だから、ニュースくらいは見とかないとさ……」

 そう言ってリビングを出て行く桜木さんの背中を見ながら、やっぱり真面目な人なんだな、と改めて思う。それに比べて俺なんてテレビは滅多に見ないし、一応テレビ自体はあるけど、殆ど付けたことすらないのに。

 俺はテーブルの隅に置いてあったリモコンを手に取ると、「電源」と書いてあったボタンを一つ押した。
 すると、それまで真っ黒だったテレビの画面に映像が流れ始め、続けて聞こえて来たのは……、明らかに行為を思わせる声で……


 しかも男……の?
 これって……、もしかしなくても、そう……だよな?


 心臓がバクバクと鳴って、顔も熱くなるのが分かって、俺は咄嗟にテレビの電源ボタンを押した。

 AVとか、別に初めてってわけじゃないし、和人と一緒に何度か見たことはある。でもまさか桜木さんがこんなのを見てるなんて、正直想像したこともなかった。


 俺と付き合いだしたから、だからわざわざこんなモンで……?


 確かに、桜木さんは元々ノンケだし、男女のセックスしか経験して来なかった人にしてみれば、男同士のセックスは未知の世界なのかもしれない。
 でも、男同士のセックスしか経験のない俺にしてみれば、男女のセックスの方がよっぽど未知の世界なわけで、だから桜木さんが、もし俺と今より先の関係に進もうと考えてくれてるなら、それはそれで嬉しいことではあるんだけど……
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