君の声が聞きたくて

誠奈

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第13章  coda

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 「智樹と付き合う前、結婚を意識していた人がいる、って話したろ?」
 『……うん』
 「その人との間に子供が出来たんだ。さっきのは、赤ん坊の写真で……」

 そこまで言って言葉に詰まる。智樹が今にも泣き出しそうなのに、唇をキュッと噛んで、涙を堪えているのが分かったから。

 俺は堪らず智樹を抱きしめた。強く強く、細い智樹の身体が折れるんじゃないか、ってくらいに強く……
 智樹もそれに応えるように、俺の背中に腕を回した。


 言いたくない。
 でも言わなきゃいけないんだ、俺の口から。

 全ては俺が撒いた種だって分かってる、分かってるけど、でも……!


 智樹の肩口に顔を埋め、何度も深呼吸を繰り返していた。すると、俺の背中に回した手がスッと離れ、小さく握った拳が俺の胸をトンと軽く叩いた。

 「な……に?」

 俺が聞くと、智樹は俺の腕から離れ、物言いたげに口を動かした。
 けど、俺には伝わらないと判断したのか、小さく笑うと智樹のためにとテーブルの上に用意してあったメモ用紙とペンを手に取った。
 その手が微かに震えて見えるのは、俺の気のせいなんかじゃなく……

 「智……樹?」

 いつもなら、まるで絵でも描くかのようにサラサラと動くペン先が、途中で何度も止まってしまう。それでも随分と時間をかけ、漸く書いた文章を俺に差し出した。

 「俺に? 読めって?」
 『うん……』

 智樹が頷いたのを見て、俺は智樹から渡された紙に視線を落とした。

 『ごめんね』
 『俺達、終わりにしよう』
 「違……っ、どうして……」

 謝らなきゃいけないのは俺の方で、別れを告げるべきなのは俺なのに、どうして智樹が……

 『最後に、一つだけワガママ言ってもいい?』
 「そん……な、最後とか、頼むから言わないでくれ……」


 そんな悲しい言葉…智樹に言わせたくなかったのに……


 俺は堪らず再び智樹を抱きしめた。でも智樹はそれを拒むと、テーブルの上に投げ出されたペンを握った。

 『一度だけでいい、抱いて欲しい』
 「智樹、本気……で?」
 『うん……』

 小さく頷いた智樹は、これまで見せたことの無い、とても穏やかな、それでいてどこか覚悟を決めたような、そんな顔をしていた。
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