君の声が聞きたくて

第１４章 dolore

２

　呼吸も落ち着いて来たところで、俺は漸く目の前のドアをノックした。

　でも、待てど暮らせど返事は帰って来ないし、ドアに耳をくっつけて澄ましてみるけど物音だってしない。
　インターホンを鳴らせば済むことなんだけど、もしも寝てたらって考えたら、目の前にあるボタンを押すのは躊躇った。


　もう一度ノックして、それでも返事がなかったら、諦めて帰ろう。後からメールなり、電話なりすれば良いし。


　俺はフッと息を吐き出すと、半分諦めモードになりつつも、さっきよりはちょっとだけ強い力でドアをノックした。


　そしたら、さ……


　「はい」って、翔真さんの声が返って来て、続けて、「誰かいるのか？」ってドアの向こうから言われるけど、俺はそれに答えることが出来なくて。


　どうしたら良い……？


　問いかけに答える術を持たない俺が、ただただ俯くことしか出来ず立ち尽くしていると、突然目の前のドアが勢い良く開け放たれ、驚く間もなくあっという間に部屋の中へと引き込まれてしまった。

　「どう……して？」

　絞り出すような翔真さんの声に、雨粒で濡れた顔で翔真さんを見上げた。

　いつもの翔真さんに比べると、ほんの少しだけ元気がないようにも見えるけど、顔色は悪くない。

　『良かった』

　安堵の思いも込めて呟いた言葉だった。
　でも、翔真さんは俺の唇の動きが読み取れないみたいで……

　「え、ごめん、もう一度……」

　困惑したような顔をして首を傾げるから、ならばと思って筆談に切り替えた。筆談の方が、一度に沢山の言葉を伝えられるし、翔真さんにだってちゃんと伝わると思った。

　なのにどうしてだろう、

　『良かった、連絡ないから、今度は本当に熱でも出してるのかと思った』

　やっとの思いで書いた文字は、どれもみんなミミズが這ったような字で……

　子供の頃に習字を習っていたおかげで、字だけは綺麗だって褒められることも多かったから、自分でもちょっとショックだった。


　きっと雨に濡れて、手が冷えてるからだ、きっとそうだ。


　その証拠に、中に入るようにと俺の手を取った翔真さんの手が、いつもよりも数倍温かく感じられた。