君の声が聞きたくて

誠奈

文字の大きさ
162 / 337
第16章  divisi 

11

しおりを挟む
 半分呆然、残りの半分は怒りと、まあ複雑な感情を抱えたまま雅也さんの店に行くと、俺を見るなり挨拶もすっ飛ばして、雅也さんは腹を抱えて笑い出した。


 こっちは笑い事じゃないのに……


 両頬を目一杯膨らました俺に、雅也さんが水で濡らしたタオルを差し出してくる。

 「悪い悪い、あんまり見事な手形だから、つい……。ププ……」


 つか、俺の顔そんな酷いことになってんの?

 雅也さんから受け取ったタオルをジンと痛む頬に当てると、冷たさが火照りを冷ますのが分かる。

 「しかし、随分とまあ……。プププ……」


 心配してるようなこと言って、結局笑ってんじゃんか……


 『だってムカついたんだもん』

 たまに顔を合わせるだけで、特に絡んだこともないのに、いきなり付き合ってくれとか言われたって、正直困るし……

 『意味分かんねぇし』
 「まあな。でもさ、何も馬鹿正直に《俺はゲイです」って言わなくても良かったんじゃない?」
 『だって……』

 雅也さんの言いたいことは分かる。
 以前に比べれは大分認知されるようにはなったし、奇異の目で見られらることも少なくはなってきた。
 それでも俺達みたいなのは、世間的にはまだ異端でしかないし、生産性のない恋愛自体を嫌う人だっているわけだから、なるべく自分の性癖を隠して生きて行くのが、自分のためでもあるってことは、こんな馬鹿な俺でも分かってる。


 でもそれじゃ息が詰まんだよ。
 ずっとそうして本当の自分を押し殺して生きて行くのって、案外辛いんだぜ?


 ま、元々ノンケだった雅也さんだから、その辺は理解してくれてると思うけど……
 そうじゃなかったら、あの潤一さんとはとても付き合えないしね?


 実際には見たことはないけど、ドラッグクイーンなんかしてるくせに、タチとかさ、俺から言わせりゃ、あの女子高生と同じレベルで意味が分かんないんし。


 ま、そんな潤一さんだから、雅也さんみたいな人が惚れたんだろうな………
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...