君の声が聞きたくて

誠奈

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第19章  stringendo

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 久しぶりに口にしたお袋の料理はどれも美味くて、一口噛み締める毎に幸せを感じるのに、それが何故だか悲しくて、胸が苦しくて、俺は不意に目頭が熱くなるのを感じた。

 「親父、それからお袋も、ごめん……」

 箸を置き、突然頭を下げた俺に、二人が顔を見合わせる。親父は開きっぱなしだった新聞を畳み、お袋は洗い物の手を途中で止めた。そしてエプロンで濡れた手を拭きながら俺の前に座ると、暫く会わないうちに増えた皺を更に増やし、首を傾げた。

 「急にごめんなんて、どうしたの、一体……」

 どうしたって聞かれたって、俺自身一体何に対して謝ってんのかは、正直申し訳分からない。

 ただ一つ、俺がこれから告げようとしていることは、確実に両親を悲しませ、そして苦しめるだろうってこと、それだけははっきりと分かっている。

 俺はスッと息を吸い込むと、背筋をピンと伸ばし姿勢を正した。

 「親父、お袋、俺……さ、好きな人がいるんだ」
 「ええ、知ってるわよ。あなた高校の時から、ずっとあの娘一筋だもの」

 そうだよな。お袋の中での俺の恋愛事情は、きっと高校の時で止まってるんだと思う。

 だからこそ、そんなお袋の期待を裏切るようなことはしたくないし、本当なら言いたくもない。

 でも言わないと。今言わなければ、俺はきっとこの先もずっとこのままの、優柔不断で、意気地の無い男で終わってしまう。


 それじゃ駄目なんだ。


 「違うんだ、お袋。アイツとはもう終わったんだ」


 厳密に言えば、彼女の両親が、彼女の意思を確かめることなく終わらせたんだけど……


 「どういうことなの? だって、あなた赤ちゃんが出来たって……」
 「俺の子じゃなかったんだ、俺の子じゃ……」
 「えっ?」

 お袋が声を詰まらせたのが分かった。

 そりゃそうだよな。電話で話した時は、順序は違えど、孫が出来たことに喜びを隠しきれてなかったもんな。

 勿論それは親父も同じで……

 「どういうことだ」

 表情こそ変えはしないが、かけていた眼鏡を外す仕草から、困惑の色は見て取れた。
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