君の声が聞きたくて

誠奈

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第20章  delicato

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 「それにしても今日は疲れた」

 潤一さんが、雅也さん程ではないけど、長身の身体には不釣り合いな小さなベッドの上で欠伸を噛み殺す。


 そう言えば……


 『日曜なのに仕事だったの?』

 俺達みたいな、所謂サービス業に就いてると土日の休みは珍しいことでもあるけど、潤一さんみたいなサラリーマン業の人が、勿論全てがそうではないんだろうけど、日曜に出勤することは珍しい。

 「ん? ああ、今日は大事な会議があってさ、緊張しっぱなしだったからな。それに、ちょっとしたアクシデントもあったし……」
 『ふーん、サラリーマンってのも色々大変なんだね?』
 「まあな」

 小さく言って、もう一度欠伸をした潤一さんが、ベッドの上で身体を丸める。


 っていうか……


 『ねぇ、まさかここで寝るとか言わないよね?』
 「そのつもりだけど? ほら、俺達今冷戦中だし」
 『それはそうだけど……』

 潤一さんと雅也さんは寝室を共にしているから、雅也さんに拒絶された今、俺が間借りしているこの部屋を除けば、リビング以外に場所はないんだろうけど、俺一人が寝て丁度のサイズのベッドに、大の大人二人でなんて、流石に窮屈だし、それに……

 「安心しろ、お前みたいな小便臭いガキに興奮したりしないから」
 『は、はあ?』


 元々童顔のせいか、実際の年齢より若く見られることはあるけど、言うに事欠いて、小便臭いガキって、ちょっと酷くない?


 『っていうか、スーツ皺になるよ?』
 「いい、どうせクリーニング出すから」

 丸めた背中をトンと叩くと、潤一さんは更に身体を小さく丸めて、毛布を肩まで引き寄せた。

 『……ったく、しょうがねぇな……』

 俺は僅かに空いたスペースに、潤一さんとは背中合わせになる格好で横になると、潤一さんが掴んだのとは反対側の毛布の端を掴んだ。
 すると、窮屈なんだけど、でも久しぶりに背中に感じる人の温もりに、瞼が自然と重たくなって来るんだから不思議だ。

 『おやすみなさい』

 俺は欠伸混じりに言って、重くなった瞼を閉じた。

 でもその時、「そう言えば、桜木がさ……」と、寝言とも区別のつかない声が聞こえて……

 『今、何て?』

 咄嗟に聞き返すけど、もう眠ってしまったのか返事はなく、代わりに静かな寝息だけが返って来た。
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