君の声が聞きたくて

第２１章 loco

１１

　気持ち悪い……、きっとその言葉に嘘は無かったんだと思う。

　俺だってもしその立場なら……、恐らく同じように答えたことだろう。

　でもその偽りのない本音が、幼い松下の心を傷つけた。

　「その翌日だったかな、学校行くと噂になってるわけよ、ホモだの変態だの、言いたい放題でさ……」


　初めは一つだった筈のナイフが、無数のナイフの束となって、深く……


　深く……


　「それからかな、俺は本来の自分自身を硬い殻に閉じ込めた結果、誰にも心を開くことなく、自分を偽って生きて来た」

　確かに、出会った頃の松下は、誰に対しても警戒心剥き出しの、全身に鎧でも纏っているような、そんな雰囲気だった。


　ま、今ではそんな姿も懐かしく感じる程、ガラッとイメージが変わっちまったけど。


　「裕也さんとはどこで？」
　「そうだな、丁度高校を卒業する頃だったかな、友達と偶然入ったファストフード店で働いてたのが裕也さんで……。あの人さ、今と全然変わんないの。無精髭は生えてるし、なのにおネェ言葉だし」
　「そうなんだ？　でも、なんか想像出来るかも」

　でしょ？、と言って松下が思い出し笑いをする。

　それくらい、裕也さんとの出会いは印象的だったんだろうな。

　「一緒にいた友達はさ、裕也さんのこと気持ち悪いって言ったけど、俺は……俺だけは違ってて、なんつーの、やっと俺のことを分かってくれる人に会えた、って言うかさ、そんな感じだったかな」

　それまで自らの性癖を隠して生きて来た松下にとって、裕也さんとの出会いは、それだけでその先の松下の人生にとって、とても大きな影響を及ぼしたってことは、今の松下を見ていれば容易に想像が出来る。

　「それからは裕也さんに会いたい一心で店に通って、漸く親しくなれた時には、裕也さんのこと、好きになってたんだよね、俺……」
　「へぇ……、って、えっ？」

　まさかとも思える告白に、俺の思考が止まり、同時に足も止まった……にも関わらず、松下は歩を止めることもなければ、ポツンと取り残された俺を振り返ることもせず、話を続けた。


　「俺の初めての相手、裕也さんなんだよ」と……