君の声が聞きたくて

第２１章 loco

１０

　派手なネオンで飾られたドアを開くと、途端に冷たい風が店内に吹き込んで来て、まだコートを羽織っていない俺達は、同時に肩を竦めた。

　「二人とも気を付けて帰るのよ？」

　店の外まで俺達を見送ってくれた裕也さんが、黒のタンクトップの上にショッキングピンクのストールを引っ掛けただけの、なんとも寒々しい格好で手を振る。
　俺達は二人して裕也さんに手を振り返しながら、お互い顔を見合わせては、時折吹き付ける風の冷たさに肩を震わせた。

　「良い人だね、裕也さんて」
　「うん。俺さ、あの人と会って、漸く自分のことを認められるようになった、って言うかさ……」

　コートのポケットに両手を突っ込み、僅かに欠けた月を見上げて、松下が白い息を吐き出す。

　「俺、あの人に救われたんだよね」
　「そうなんだ？」
　「俺さ、中学の頃だったかな、凄く好きな子がいてさ……」

　勿論男だけど……、そう言って松下が小さく笑う。

　「でもさ、その時はまだ男が男を好きになるってことがどういうことか、俺全然分かってなくてさ」
　「案外初心うぶだったんだ？」
　「まあね。その頃の俺は何も知らない、ただの子供だったから」
　「へぇ、お前にもそんな頃があったんだな？」

　誰にでもある、純粋で、何の汚れもない無垢な時間。
　それはあまりにも短く、あっという間に過ぎ去ってしまうものだ、俺自身がそうであったように。

　「俺さ、その子のことが好き過ぎてさ、思い切って告ったんだよね、後先なんて全く考えずに……」
　「それで、結果は？」

　聞かなくたって大体の想像はつく。
　なのにあえて答えを問うのは、僅かな可能性にかけてみたかったからだ。

　「振られたよ。考えることも、迷うことさえなく、一言《気持ち悪い》って、あっさりね」

　結果は俺の予想を裏切ることはなかったけど……