君の声が聞きたくて

誠奈

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第23章  passionato

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 お互いに押し黙ったままの時間が続く。

 視線を逸らした横顔から、上杉が何を思っているのかが分かる。

 「なあ、上杉……」

 俺が呼びかけると、タンクトップから出た肩がビクンと跳ね上がった。


 驚かせるつもりなんてなかったのに……


 「なんすか?」
 「いや、その、何て言うか……、やっぱり気持ち悪い……よな?」


 そうだよな、そう思うのが普通だよな。


 「ごめん、変な話聞かせてしまって」

 俺はポケットから財布を取り出すと、大将に会計を申し出た。

 もし智樹とのことを明かせばこうなることは、実際のところ予想はしていた。なのにいざその場面になると、居心地が悪くて……

 「俺、先帰るから……」

 大将からお釣りを受け取った俺は、一刻も早くその場から立ち去りたくて、上杉を一人残し足早に店の外へと出る。


 頭の片隅では分かってた。簡単に理解して貰えることじゃないって。


 ただ、あまりにあからさまな態度は、……やっぱり傷付く。


 こんな思いを、智樹や松下はずっと抱えながら生きて来たのかと思うと、胸が痛かった。

 俺はコートのボタンを首元まできっちり閉めると、街灯すらない道を、マンションに向かってドボドボと歩き始めた。途中、マフラーと手袋を店に忘れて来たことに気付いたが、引き返す気にはなれなくて、仕方なく通りすがりの自販機でホットコーヒーを買い、かじかんだ手を温めた。
 ただそれも気休めにしかならなくて、数分も経てば冷めてしまう。
 こんなことならマフラーと手袋を取りに、店に引き返せば良かったとも思ったが、それも後の祭りだ。

 漸くマンションに辿り着いた頃には、手は勿論のこと、足の爪先までもが痺れたように感覚がなくなっていて、一刻も早く冷えきった身体を温めようと、熱いシャワーを浴び、早々にベッドの中に潜り込んだ。

 翌日、まさか数年ぶりの発熱に、数日の間寝込むことになるとは、梅雨とも知らずに。
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