君の声が聞きたくて

第２４章 tempestoso

１３

　翔真さんが待ってる、そう思ったら時計ばかりが気になって仕方がなかった。
　自分でも足が地に着いていないような、そんな感覚がしたくらいだから、きっと周りからしたら凄くソワソワして見えてたんだと思う。

　「俺、戸締りまでしとくんで、今日はもう上がって下さい」

　売上の計算をしている俺の肩を、副店長の西山が叩いた。

　「いや、でもまだ片付け残ってるし……」

　本音を言えば、今すぐにでも帰りたい。
　でも、俺が想像していた以上に店は忙しかったようで、テーブルにもカウンターにも、ジョッキやら皿やら食器の類が下げきれずに残っている。この状況で俺一人が……ってわけには、やっぱりいかない。


　しかも俺、こう見えて一応・・店長だし……


　「もう少し片付いてから帰るよ」

　連絡先は交換したし、きっと翔真さんなら事情を説明すれば分かってくれる。



　それに、元々天辺は超えるとは言ってあるし……



　俺は再び苦手な電卓に視線を落とした。でも、小さく肩を竦めた西山に、電卓を取り上げられてしまう。

　「いいからいいから。後は俺やっとくんで、兎に角今日は上がって下さい」
　「いや、でも……」
　「店長に帰って貰わないと、俺がオーナーに怒られるんですよ」


　は？
　何でそこで雅也さんの名前が出てくんの？


　「意味、分かんないんだけど……」
　「だーから、さっき店長をすぐ上がらせるように、ってオーナーから俺に直電があったんですって。だから今日はもう……」
　「そう……なの？」

　そんな電話があったなんて、全然気が付かなかった。
　尤も、店の電話にじゃなく、西山の電話に直接ってことなら、俺が気付かないのも無理はないんだろうけど。

　「あ、それと明日と明後日なんですけど、店長オープンからこっち、全然休み取ってませんよね？」
　「ま、まあ、そうだけど……」
　「明日は急遽オーナーが入ってくれるそうなんで、店長はお休みで良いそうです」


　へ？
　ますます意味わかんないんだけど？

　そりゃ本店には、雅也さんの代わりが出来る奴はいるけど、何で急に？


　「ってことで、お疲れ様でした！」

　西山が言うと、店のあちらこちらから「お疲れ様でした」の声が飛んだ。