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1.カルテの森と眠るドクター
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神野がカルテ庫に現れてから一ヶ月。
最初の二週間は警戒し、仕事に打ち込むことで話しかけられないようにしていたが、最近ではあまり気にならなくなっていた。
なぜなら神野は、週に二度か三度の割合でふらりと現れて、ただ眠るだけなのだ。
たまに起きていることもあるが、ぼんやり外を眺めているばかりでこちらに話しかけることはない。
会話しなければ空気と同じだと思いつつ、朱理は彼に興味を抱き始めている自分を持て余していた。
仮眠室でも医局でも、快適に寝られる場所はいくらでもあるだろうに、わざわざ病棟から離れた旧棟のカルテ庫に来るのが不思議だ。
着任してまだ二ヶ月。
新たな人間関係構築や、病院に慣れるためにいろいろと気を使わなければならないはずなのに、こんな処で何時間も昼寝してサボっていいのかと人ごとながら心配してしまう。
家族や身内以外に対する興味が極端に少ない朱理にしては、珍しいことだ。
移動式書棚の間からソファを見つめて目を細める。
そうすると神野が眠っている姿が記憶からうっすらとよみがえる。
白い額にかかる黒髪、薄く開いた唇、寝ていても端正な容貌。
涼しげな目元には、小さなほくろが一つ。
眠り姫とあだ名をつけてしまった自分がおかしくて、ついほほ笑んでいると、不意に声をかけられた。
「かわいいな。そんな顔で俺を探してくれるわけだ」
はっとして振り向こうとするが、驚きに足がもつれてよろめく。
書棚に背中を打ち付けると目を閉じた瞬間、大きな手が背中を支えた。
視界の中で白衣の裾がひるがえり、黒い前髪がわずかに揺れる。
思っていたより高かった相手の身長にどぎまぎしていると、眠り姫――神野が目を和ませた。
「こんにちは、カルテ庫の魔女さん。……眠り姫って俺のことか」
喉を鳴らし笑う神野から尋ねられ、頬に血が上っていく。
最初の二週間は警戒し、仕事に打ち込むことで話しかけられないようにしていたが、最近ではあまり気にならなくなっていた。
なぜなら神野は、週に二度か三度の割合でふらりと現れて、ただ眠るだけなのだ。
たまに起きていることもあるが、ぼんやり外を眺めているばかりでこちらに話しかけることはない。
会話しなければ空気と同じだと思いつつ、朱理は彼に興味を抱き始めている自分を持て余していた。
仮眠室でも医局でも、快適に寝られる場所はいくらでもあるだろうに、わざわざ病棟から離れた旧棟のカルテ庫に来るのが不思議だ。
着任してまだ二ヶ月。
新たな人間関係構築や、病院に慣れるためにいろいろと気を使わなければならないはずなのに、こんな処で何時間も昼寝してサボっていいのかと人ごとながら心配してしまう。
家族や身内以外に対する興味が極端に少ない朱理にしては、珍しいことだ。
移動式書棚の間からソファを見つめて目を細める。
そうすると神野が眠っている姿が記憶からうっすらとよみがえる。
白い額にかかる黒髪、薄く開いた唇、寝ていても端正な容貌。
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「かわいいな。そんな顔で俺を探してくれるわけだ」
はっとして振り向こうとするが、驚きに足がもつれてよろめく。
書棚に背中を打ち付けると目を閉じた瞬間、大きな手が背中を支えた。
視界の中で白衣の裾がひるがえり、黒い前髪がわずかに揺れる。
思っていたより高かった相手の身長にどぎまぎしていると、眠り姫――神野が目を和ませた。
「こんにちは、カルテ庫の魔女さん。……眠り姫って俺のことか」
喉を鳴らし笑う神野から尋ねられ、頬に血が上っていく。
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