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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==

0-4.高度一万メートルの黒歴史

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 ちじょ? 地上? 聞き慣れない単語の意味を理解しようと動きを止め、相手の顔を見る。
 瞬間、千秋はここが飛行機の中であることも、高度一万メートル上空であることも綺麗さっぱり忘れ、目前に現れた第二の非日常に見入っていた。
 ――とんでもなく美形な男が、そこにいた。
 シャープで整った輪郭に、完璧な比率で配置された目や鼻のパーツ。
 少し日に焼けた肌に、墨を浸した筆でさっと描いたような柳眉。
 真っ直ぐに通る鼻筋は高すぎず低すぎず、実に絶妙な加減で、男の顔を彫り深いものに仕上げている。
 離陸時に乱れたのか、後ろに撫でつけていたであろう長めの前髪が額に落ち掛かっている様子がなんとも色っぽい。
 前髪の間から覗く男の眼は鋭く、研がれた刀のように端で切れ上がっており、ともすれば女性的にさえ見える美貌を、凜々しく硬質的なものに印象づけていた。
(目力という言葉を、本当の意味で理解したかも)
 頭の奥で、ぼんやりと千秋は思う。
 男の瞳は、瞳孔も見通せないほど虹彩まで黒いのに、奥に激しい光がある。
 光と闇という相反する要素を、なんの矛盾もなく共有させる男の瞳に見とれていると、ふと男の視線が揺れて、光もぶれた。
 それで、〝ああ、この人の目が潤っているから、こんな瞳になるのか〟と気付くが、知性で理解することと心が感受することは違う。
 今まで、男の顔を見なくてよかった。見ていたら、失恋した過去どころか、明日から始まる新生活も頭から吹っ飛んでいたに違いない。
 そう思うほど男の美貌はすさまじく、そこに宿る怒りの表情もまたすさまじかった。
「おい、痴女。……なに、ぼーっとしてるんだ。早く手をどけろ」
 奈落の底まで震えるような、低くドスの利いた声が鼓膜を震わせ脳を揺らす。
 そこでようやく〝ちじょ〟が自分のことだと千秋は気付くが、それでも頭が働かない。
 魂が抜かれたように、男の顔ばかり見てしまう。
 とはいえ千秋はまだマシだった。
 というのも、神に愛された美貌をもつ存在が、ごくごく近くにいたからだ。
(うっわぁ……。千春ちゃんより美人な人って、初めて見たかも)
 沖縄にくる原因ともなった双子の妹を思い出し、二度瞬きを繰り返す。
 生まれたときから麗しく、幼いときは西洋人形。今や百花と競い劣ることはない――とまで言われる千秋の妹を。
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