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しおりを挟む「おまたせ」
「遅せぇんだよ。その足は何のためにあるんだよ?ノソノソ歩いてこの私の時間を無駄にする為にあるのか?
このノロマな豚野郎が」
「おう、そうだな。俺もそう思う」
アスカの言っていた「連れ」とは、やはりあの少年だった。黒い学ラン姿で、柔らかく中性的な顔付きをしている。
いつの日か駅のホームに立って居た時、唇の皮を剥く私の姿を、向かい側のホームで微妙な顔をして見ていたあの少年。アスカと一緒に居るところも見たな。
アスカの暴言を慣れた調子で受け流し、少年は私を見た。アスカとは逆に感情がすぐ顔に出るタイプらしく、見てわかるほどに怪訝な顔をしている。「........こんにちは」失礼な態度は控えたい、でも正直気持ち悪い、そんな声だった。
少々気分は悪かったが、彼のこの態度は私自身が原因なのだ。彼を責める権利は、私には無い。彼の、申し訳なさそうだが私に対する嫌悪感も否めない様子にいたたまれなくなり、私は立ち上がった。
「あの、帰ります」
「そうしてください。二度と会うことはないでしょう」
どうしてそこまで言うんだ。少しぐらい、「またどこかでお会いしましょう」とか、当たり障りの無い社交辞令くらい述べようとは思わないのか。........いや、まぁ、確かに二度と会うことは無いだろうということは、私も感じている。
「さようなら」とだけ言い残し、私はその場を立ち去った。あの日記もベンチに置き去りにして、アスカ達に背を向ける。立ち去る際、背中越しに少年の「なんだこのヤバいやつ」という言葉が聞こえた。
帰路につきながら、私は母のことを思い出した。
いつも美味しいご飯を作って、寝る前に絵本を読んでくれて、とても優しい母だった。そんな彼女が大好きだったはずだ。それなのに。
それなのに私は。
立ち止まって、己の両手を広げて見た。血管が浮き出た白い手。
幼いあの日、神社の階段から母を突き飛ばした感触が蘇る。
無意識に唇が歪んだ笑みを浮かべていた。
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