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しおりを挟む歳は四歳か五歳の頃だ。いつも母は僕を保育園から連れ帰り、その後僕を一人家に残して、習い事に行っている兄を迎えに行った。その間僕は一時間程、一人で過ごすのだ。
初めの時こそ、静かな家が怖くてベソをかいていたものだが、すぐに順応して一人の時間を満喫するようになった。
やがて家の中の遊びにもすぐ飽きてしまい、僕は外に出ることを決心した。家の鍵も渡されていたので、戸締りも問題はない。
しかし、“一人で外に出る”ということへの勇気がなかなか出ず、決心をしてから数日は、ただ玄関でうろうろしてみたり、靴を履いて玄関のドアの前で緊張して立ち尽くすだけだった。
ある日、やっと覚悟を決めた僕は、満を持して外の世界に飛び出していった。
庭に放り出してあったスコップとバケツを持って、家に一番近い公園に向かう。保育園に通う道すがらにあるので、行き方は知っている。
一歩踏み出す毎に、バケツの中でスコップが音を立てる。
かたん、ことん。
たくさんの子供達が遊ぶ声でいっぱいの公園の入り口で、僕は立ち尽くした。
当時の僕と同じくらいの年代の子供もちらほら見えるが、小学生くらいの、年上の子供達の方がずっと多い。
四歳か五歳の己よりも、身体の大きい子供達が走り回り、大声を出し、ボールを投げるなどして遊んでいる。僕と歳の近そうな子供達は、おそらく大きい子達の兄弟らしい。自然な様子で大きい子達の中に溶け込んでいる。
疎外感。
なんとなく、公園の中に入ることが許されない様な気がした。僕は首を縮めて、身体をなるべく小さくしながら、その場から立ち去った。
家がある方向とは違う方角の道を、当てもなく歩いた。とても寂しかった。
思えば、あまり親や兄とは遊んだ事が無かったように思える。僕が物心付いた頃には、兄も母も忙しそうにしていた。父は単身赴任で、片手で収まる程度しか会ったことがない。ほとんど知らない人だ。
僕はさっきの公園で遊ぶ子供達のように、兄と遊んだ事が無い。一緒に走り回って笑い転げることも、小さな衝突と和解を繰り返すことも、したことがない。
かたん、ことん。
かたかた。
バケツの中で、スコップが音を立てる。その乾いた音色が耳に届く度に、胸がキュッと締め付けられた。
もっと母や兄と話したい。もっと一緒に居たい。頭の奥の方が熱くなり、視界が僅かに霞んだ。暖かい雫が下瞼を越え、頬をコロリと転がり落ちていく。
かたん。
スコップが鳴る音と、僕の泣き声が重なる。
どれだけ歩いたのか、周囲はもう見慣れない住宅街だった。迷子になってしまった。
寂しくて流していた涙が、これからどんどん空が暗くなっていく中で、家に帰れないかも知れないという恐怖の涙に変わった。
僕が帰らない事で、母や兄は心配してくれるだろうか。気付かないかもしれない。どんどん心細くなっていく。足が重くなった。乾いたアスファルトが、小さな僕の影を写している。
かたかた。かたかた。ことん。
虚しい音が、僕の首筋をチクチクと刺激する。焦燥感と恐怖で、舌が乾いて口蓋に張り付いていた。ついに僕の足は棒のようになり、その場に立ち尽くしてしまった。
鼻水を啜りきれずに、服の袖で拭う。口の端から、呼吸と共に泣き声が漏れていく。僕はこれからどうなるんだろう?
「どうしたの?」
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