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しおりを挟む叫んだ瞬間、脳天にポタリと冷たい雫が落ちてきた。見上げると、今度は右目に雨粒が落ちてきた。次々と雨が降ってきて、僕たちはすぐにずぶ濡れになってしまっていた。
「帰って」
苦しそうな表情で声を絞り出した彼女の頬に、濡れた髪の毛が張り付いている。毛先が唇の端に入っていて、それが妙に艶かしい。
僕は彼女の身体がこれ以上濡れない様にと、焦って彼女の身体に覆い被さろうとした。しかし彼女は、それを突き飛ばして拒絶した。
「帰って!二度と顔も見たくない!」
雨と、それ以外のもので濡れた顔をくしゃくしゃに歪ませて、彼女は叫んだ。
とんでもなく最低なことをしてしまったと言う実感が押し寄せてきて、僕は言葉もなかった。僕は自分のことばかりで、自分の欲ばかりで、それ以外のものが見えなくなっていた。
小さい頃は、あんなに彼女に嫌われたくないと思っていたのに、今はどうだ。目に見えるもののその先が理解できるようになり、自分に出来る事が増えてしまったせいで、何でも出来る様になったと勘違いしていた。
僕はずっと、彼女の気持ちがわからない。何を考えているのか、彼女にとって僕は何なのか、何を感じているのか、ずっとわからない。それでも、今まではわからないなりに、子供の不十分な気遣いとはいえ、彼女のことをしっかりと見ようとしていた。
彼女をどうしたいのかばかりを考えて、僕は勘違いをしていた。
僕は彼女のものだが、彼女は僕のものじゃない。物質は観測者があって初めて、この世に存在する。僕はてっきり、自分だけが観測者の立場にいるとばかり思っていた。しかし彼女もそれは同じなのだ。
彼女が実は普通の人間ではない事は薄々感じているが、その考えはあえて捨てていた。彼女は僕が見つけたその時に、この世の存在の一つとして現れたのだ。そして僕も、彼女に見つけて貰えて、初めてこの世に存在することができたのだ。
僕はいつからか、彼女の存在を見失っていたのかも知れない。視界を埋め尽くすほどの衝動的な欲望に身を駆られ、彼女の気持ちを考えることすらできなくなっていた。
吸った息が石になって、腹の中に落ちていく。吸っても、吸っても、身体の中に石の山ができていくだけで、吐き出せなかった。
重い身体を何とか持ち上げ、僕はその場から惨めに逃亡した。背後から聞こえてくる彼女の泣き声が、激しくなり始めた雨の音にかき消されていった。
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