わたしの愛した世界

伏織

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四章

4-18

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私の問いに、クロスは再び表情をなくし、ゆっくりと肉を持った手を下ろした。「あのさ、僕らにはいろんなことが立て続けに起こってて慌ただしいからさ」あんまり言いたくないんだけどね…………、と、申し訳無さそうにつぶやく。



「さっき結界張ってるときにさ、遠くの方で女の人が何人かの男に追いかけられてるところを見たんだよね」

「…………」

「待って」


立ち上がりかけたが、クロスの声に一旦座り直した。心臓は嘘みたいな速度で脈打ち、とても大人しく食事を続ける気にはなれなかった。棒から残りの肉を引き抜き、火の中に放り込んだ。


「結構女の人も男たちを引き離してたし、うまく逃げたかもしれないよ。それに、僕らには関係ないでしょ」


そう言うクロスだったが、私は彼の指先が細かく震えているのを見逃さなかった。口では大丈夫だろとしつつも、彼も心配なのだ。


「マルトの母親が言ってたよ、最近若い女がなんの前触れもなく家出する事が増えたって」

「それとあれが関係あるとは限らないでしょ。っていうか、きっと僕の見間違いだよ」


クロスのそんな言葉を否定するように、どこかから女性のものらしき金切り声が聞こえた。それは高らかに響き、無理やり止められたように急に途切れた。


「これ、うまく逃げ切ってから上げた勝利の雄叫びだと思う?」


ガタガタと震えているクロスを睨みつけ、私は肉を捨てたあとの棒を折りながら立ち上がった。「私は行くけど、お前はどうする?」


「君が行くことないでしょ。きっと大丈夫だよ。見間違いだろうし。うん、見間違いだって........」


情けない声で言いながら、クロスも立ち上がった。こちらに歩み寄ると、私の腕を掴んで怯えた目で訴えてきた。「君が行っても、危険だよ。君も女の子なんだから、下手したら……」と。

そんなことはどうでもいい。むしろ、私がどのようにしてこの世界に来たのか、それを知らないクロスではないだろう。
下手したら、私もそいつらに襲われるかもしれない?知ったことか。今更そんな事で怯えたりはしない。


「なるほど。あんたのこと軽蔑するよ。さよなら」


自分の声とは思えないほど、冷たくて機械のような声だった。ハッとしたクロスの手から力が抜けた隙に、腕を振り払って暗い森の中目掛けて走り出した。後ろからクロスの呼び止める声は、しなかった。少し悲しくて、寂しくなった。









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