64 / 176
四章
4-18
しおりを挟む
私の問いに、クロスは再び表情をなくし、ゆっくりと肉を持った手を下ろした。「あのさ、僕らにはいろんなことが立て続けに起こってて慌ただしいからさ」あんまり言いたくないんだけどね…………、と、申し訳無さそうにつぶやく。
「さっき結界張ってるときにさ、遠くの方で女の人が何人かの男に追いかけられてるところを見たんだよね」
「…………」
「待って」
立ち上がりかけたが、クロスの声に一旦座り直した。心臓は嘘みたいな速度で脈打ち、とても大人しく食事を続ける気にはなれなかった。棒から残りの肉を引き抜き、火の中に放り込んだ。
「結構女の人も男たちを引き離してたし、うまく逃げたかもしれないよ。それに、僕らには関係ないでしょ」
そう言うクロスだったが、私は彼の指先が細かく震えているのを見逃さなかった。口では大丈夫だろとしつつも、彼も心配なのだ。
「マルトの母親が言ってたよ、最近若い女がなんの前触れもなく家出する事が増えたって」
「それとあれが関係あるとは限らないでしょ。っていうか、きっと僕の見間違いだよ」
クロスのそんな言葉を否定するように、どこかから女性のものらしき金切り声が聞こえた。それは高らかに響き、無理やり止められたように急に途切れた。
「これ、うまく逃げ切ってから上げた勝利の雄叫びだと思う?」
ガタガタと震えているクロスを睨みつけ、私は肉を捨てたあとの棒を折りながら立ち上がった。「私は行くけど、お前はどうする?」
「君が行くことないでしょ。きっと大丈夫だよ。見間違いだろうし。うん、見間違いだって........」
情けない声で言いながら、クロスも立ち上がった。こちらに歩み寄ると、私の腕を掴んで怯えた目で訴えてきた。「君が行っても、危険だよ。君も女の子なんだから、下手したら……」と。
そんなことはどうでもいい。むしろ、私がどのようにしてこの世界に来たのか、それを知らないクロスではないだろう。
下手したら、私もそいつらに襲われるかもしれない?知ったことか。今更そんな事で怯えたりはしない。
「なるほど。あんたのこと軽蔑するよ。さよなら」
自分の声とは思えないほど、冷たくて機械のような声だった。ハッとしたクロスの手から力が抜けた隙に、腕を振り払って暗い森の中目掛けて走り出した。後ろからクロスの呼び止める声は、しなかった。少し悲しくて、寂しくなった。
.
「さっき結界張ってるときにさ、遠くの方で女の人が何人かの男に追いかけられてるところを見たんだよね」
「…………」
「待って」
立ち上がりかけたが、クロスの声に一旦座り直した。心臓は嘘みたいな速度で脈打ち、とても大人しく食事を続ける気にはなれなかった。棒から残りの肉を引き抜き、火の中に放り込んだ。
「結構女の人も男たちを引き離してたし、うまく逃げたかもしれないよ。それに、僕らには関係ないでしょ」
そう言うクロスだったが、私は彼の指先が細かく震えているのを見逃さなかった。口では大丈夫だろとしつつも、彼も心配なのだ。
「マルトの母親が言ってたよ、最近若い女がなんの前触れもなく家出する事が増えたって」
「それとあれが関係あるとは限らないでしょ。っていうか、きっと僕の見間違いだよ」
クロスのそんな言葉を否定するように、どこかから女性のものらしき金切り声が聞こえた。それは高らかに響き、無理やり止められたように急に途切れた。
「これ、うまく逃げ切ってから上げた勝利の雄叫びだと思う?」
ガタガタと震えているクロスを睨みつけ、私は肉を捨てたあとの棒を折りながら立ち上がった。「私は行くけど、お前はどうする?」
「君が行くことないでしょ。きっと大丈夫だよ。見間違いだろうし。うん、見間違いだって........」
情けない声で言いながら、クロスも立ち上がった。こちらに歩み寄ると、私の腕を掴んで怯えた目で訴えてきた。「君が行っても、危険だよ。君も女の子なんだから、下手したら……」と。
そんなことはどうでもいい。むしろ、私がどのようにしてこの世界に来たのか、それを知らないクロスではないだろう。
下手したら、私もそいつらに襲われるかもしれない?知ったことか。今更そんな事で怯えたりはしない。
「なるほど。あんたのこと軽蔑するよ。さよなら」
自分の声とは思えないほど、冷たくて機械のような声だった。ハッとしたクロスの手から力が抜けた隙に、腕を振り払って暗い森の中目掛けて走り出した。後ろからクロスの呼び止める声は、しなかった。少し悲しくて、寂しくなった。
.
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる