わたしの愛した世界

伏織

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八章

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八章



人という生き物は、どうやら自我を失いかけた時に視界が曇るみたいだ。赤黒い斑点のようなものが視界にブツブツと滲みだし、全てを覆い尽くすように広がっていく。
今、私の身を乗っ取りつつあるもの、それは激しい怒りだった。



血だ。まるで血のような色だ。私の視界は、血で覆われているようだ。目の前の光景とは関係ない、これは私の血だ。きっとそうだ。
この色は、目の前のものとは関係ない。目の前には、何も無い。きっとそうだ。
視界が晴れた時には、全てが元通りの無傷。そのはずだ。


「................クソッ」


どう思い込もうとしても、自分のことを騙すことは出来なんだ。目の前の光景の全てが、私の勘違い、気のせい、幻覚の類いでは無い、現実なのだ。嫌気がさすほどに、現実だ。



私は人殺しだ。はっきり言って、初めて人を殺した時には全くと言っていいほど、罪悪感を抱かなかった。目的の相手を的確に、苦しませないように殺す。私がした殺しは、それだった。感情は極力排除して、なんとも思わないように自分を抑え込んだ。まぁ、その後本当にちゃんと死ぬのか心配だからと、なんども滅多刺しにはしたが。


だがこれは、あまりにも酷い。


私達の部屋の入口で死んでいた、この男の子の父親や私が見た客室で死んでいた女。そして、恐らくはエリザが確認した死体も、おそらくは私がルークにしたそれと同じく、なるべく苦しめないように殺したのだろう。少なくとも、男の子や男の子の母親とは違う。


想像するに、男の子の母親ーーー宿屋の奥さんは、私達の部屋の前で自分の夫が殺されるのを目撃した。そして何者かに刃物で足を切られた。足を引き摺りながらも、必死に階段を降り、必死に息子の元へと向かったのだ。しかし、息子の居る部屋にたどり着いた時、彼女の足を切った張本人も後ろに迫っていたのだ。




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