わたしの愛した世界

伏織

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九章

9-2

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父はその後、朝になるとスーツ姿で家を出た。出るときに、ちょうど顔を冷やすための氷を取り替えに来た私を見て、


「その顔の傷が元に戻るまで、学校は休みなさい。病院に行くときは、説明するときはくれぐれも……」


と、そこで言葉を切って、右手の人差指を私に向け、据わった目で睨みつけた。余計なことを言っても無駄だと言いたいのだろう。外面がよく社会的に地位のある父と、只の子供である私とでは、世間はどちらを信用するのかは明らかである。


「はい」


私はいつも通り、無表情で頷いた。父はそれを見て満足気に頷く。彼の思い通りに動いていれば、私の身も安全なのだ。「じゃあ、いい子で待ってなさい」普通の父親のように、優しく声をかけてから、父は出ていった。


父を見送った後、氷を入れた袋をタオルで包みながら、自室に戻った。学校への休みの連絡は、きっと父がやるだろう。私は極力、家族以外とは何も喋らない様にしている。父が自分の行いを世間に知られたくないからだ。

もし、全てが明るみに出たら父は社会的信用を失い、一家の生活レベルも一気に落ちる。私はそれでも構わないが、元モデルで今でも時々雑誌のインタビューを受けている母や、四歳の弟にとっては、それは死にも等しい。


私が自室の扉を閉めた後、軽い足音が部屋の前までやってきた。


「ハルノ、お母さんは今からおじいちゃんたちの家に行ってくるから、たっちゃんの面倒、よろしくね。夕方には帰ってくるから」


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