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それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

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 結婚まで数年の猶予を得た一嘩は、それ以降は異性に対して奔放な生活を謳歌しはじめた。

 婚約解消の決め手にもなるだろうと不貞の証拠として事実を把握していが、相手は比較的短期間で変わり、さらに途切れないところに驚きを隠せなかった。

 祖父は結婚を先延ばしにしたことに不満げだったが、今の時代は女性も社会に出て働くのが当たり前になってきたともっともらしく説得すれば渋々認めた。

 なんだかんだ言っても、一嘩との婚約を破棄する意志は揺らがない。
 ただ、それがいつになるのかは自分にもよくわからなかった。

 音羽が夢を叶えてあの家を出られたときがそうなのだろうかと、不確定要素の多いビジョンをさもあたりまえに考えていた。

 波川家へ一嘩を迎えに行き、仲は良好だと周囲に印象づける。その合間に、音羽との交流も欠かさない。一嘩が就職後も実家暮らしを続けたおかげで、音羽との接点は途切れずにあった。
 社会人同士なのだから外で会えばよいのだが、そこは上手くいっていると見せつけるという思惑もあり、波川家に通い続けた。

 部活や勉強の話だけでなく、音羽は次第に好きな音楽や見たい映画などの話もしてくれるようになっていった。

 俺とは歳が離れているが話題は尽きず、彼女と話す時間は思いの外心地よい。
 いつも会えるわけではなかったが、音羽に遭遇すればその後の一嘩の相手も気にならないほどだった。

 一嘩と一緒に出かけるふりをしながら、少し離れた駅まで送って解散する。そのまま自分は仕事に向かったが、彼女は大抵ほかの男に会いに行く。

 生産性のない無駄な時間かもしれないが、どうしても音羽とのつながりを絶つ決断ができず、そんな関係をずるずると続けていた。

 俺が一嘩と婚約して一年ほどが経った頃、高校を卒業した音羽は、自宅から通える距離にある音楽大学に進学をしている。

 志望校へ入学するという大きな夢を叶えた音羽は、少なからず自信をつけられたのだろう。以前の様子と比べて、ずいぶん堂々として見えた。

 けれど祝いの贈り物を渡したときの遠慮がちな笑顔は変わらずかわいらしく、どこかほっとしたのを覚えている。

 それからしばらくした頃、波川家で顔を合せた音羽が、『今度、演奏会に出るんです』と教えてくれた。聞けばオーディションを経て勝ち取った座のようで、その成果が自分のことのようにうれしくなる。
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