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甘すぎる新婚生活
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「俺たちは夫婦になったんだ。すぐには難しいかもしれないが、もっと気を抜いて素の音羽でいてほしい」
ここまでの冗談のようなやりとりは、私をリラックスさせようとしてくれたのだろうか。
そんな優しい気遣いならば、騙されたふりを押し通すよりほかない。
「できれば、敬語もなしにしてほしい」
「それは、徐々にということで」
いきなりは難しいが、彼の意に添うようにしたい。
「ああ、そうだ。この部屋は防音仕様になっているから、いつでも楽器の練習ができるよ」
ほかとは違う造りの扉を見てもしかしてと思っていたけれど、まさか私のために用意してくれたのだろうか。
マンションに手を加えている最中だからと言われていたのは、おそらくこの部屋のことだ。
これはもう、気遣なんていう範囲を超えている。一室まるごと防音仕様にするなんて、費用はかなりな額になるはずだ。
「ここまでしてもらっていたなんて……」
「音羽が喜ぶと思って」
なんでもないように、サラリと返される。
向けられた穏やかな笑みに、胸が熱くなった。
「本当に、本当にありがとうございます」
ジワリと滲む涙がこぼれないように、目にぐっと力をこめる。
碧斗さんの優しさには、限度がない。
自分は受け取るばかりになってしまい、本当に申し訳ない。
「音羽はこの結婚をいいきっかけだと言うかもしれないが、強引に話を進めた俺のせいで、フランスでの生活を手放さざるを得なかったんだ。せめてこれくらいはさせてほしい」
「そんな。姉があなたにした仕打ちを考えたら……」
謝罪をしかけた私に、碧斗さんが首を左右に振る。
「それはもう片がついている。音羽とは、未来の話をしていきたいんだ」
碧斗さんだって複雑な感情を抱えているはずなのに、すべてをのみ込んで私に接してくれる。
どれだけ謝っても足りないというのは、こちらの一方的な押し付けなのかもしれないとようやく気づかされた。
いくら私が謝罪したところで、彼の気持ちはきっと晴れないのだろう。逆にそうされるほど、過去を思い出してしまうのかもしれない。
「ここで練習ができるのは、本当にありがたいです。楽器って、一日さぼっただけですごく下手になってしまうんですよ。もとの感覚を取り戻すには倍の時間がかかるって、先生に何度も言われていたくらいで」
高校生の頃はその意味がよくわからなかったが、上達するほどそれを実感していた。好調をキープするには、日々の基礎的な練習が必須だ。
「へえ。それじゃあ、いつでも気兼ねなく練習してくれてかまわないよ。ああ、夜だけは遠慮してもらうかも」
ここの防音がどれほどのものかはわからないが、リラックスしていたい時間帯にこもって練習されるのは気になるかもしれない。
「わかりました」
「でないと、音羽をベッドに誘い辛くなるだろ?」
「へ」
気の抜けた声が漏れる。
一拍後に彼の意図を察して、全身がじわじわと熱くなる。
まさかの理由にたじたじになり、視線を四方へ彷徨わせた。
ここまでの冗談のようなやりとりは、私をリラックスさせようとしてくれたのだろうか。
そんな優しい気遣いならば、騙されたふりを押し通すよりほかない。
「できれば、敬語もなしにしてほしい」
「それは、徐々にということで」
いきなりは難しいが、彼の意に添うようにしたい。
「ああ、そうだ。この部屋は防音仕様になっているから、いつでも楽器の練習ができるよ」
ほかとは違う造りの扉を見てもしかしてと思っていたけれど、まさか私のために用意してくれたのだろうか。
マンションに手を加えている最中だからと言われていたのは、おそらくこの部屋のことだ。
これはもう、気遣なんていう範囲を超えている。一室まるごと防音仕様にするなんて、費用はかなりな額になるはずだ。
「ここまでしてもらっていたなんて……」
「音羽が喜ぶと思って」
なんでもないように、サラリと返される。
向けられた穏やかな笑みに、胸が熱くなった。
「本当に、本当にありがとうございます」
ジワリと滲む涙がこぼれないように、目にぐっと力をこめる。
碧斗さんの優しさには、限度がない。
自分は受け取るばかりになってしまい、本当に申し訳ない。
「音羽はこの結婚をいいきっかけだと言うかもしれないが、強引に話を進めた俺のせいで、フランスでの生活を手放さざるを得なかったんだ。せめてこれくらいはさせてほしい」
「そんな。姉があなたにした仕打ちを考えたら……」
謝罪をしかけた私に、碧斗さんが首を左右に振る。
「それはもう片がついている。音羽とは、未来の話をしていきたいんだ」
碧斗さんだって複雑な感情を抱えているはずなのに、すべてをのみ込んで私に接してくれる。
どれだけ謝っても足りないというのは、こちらの一方的な押し付けなのかもしれないとようやく気づかされた。
いくら私が謝罪したところで、彼の気持ちはきっと晴れないのだろう。逆にそうされるほど、過去を思い出してしまうのかもしれない。
「ここで練習ができるのは、本当にありがたいです。楽器って、一日さぼっただけですごく下手になってしまうんですよ。もとの感覚を取り戻すには倍の時間がかかるって、先生に何度も言われていたくらいで」
高校生の頃はその意味がよくわからなかったが、上達するほどそれを実感していた。好調をキープするには、日々の基礎的な練習が必須だ。
「へえ。それじゃあ、いつでも気兼ねなく練習してくれてかまわないよ。ああ、夜だけは遠慮してもらうかも」
ここの防音がどれほどのものかはわからないが、リラックスしていたい時間帯にこもって練習されるのは気になるかもしれない。
「わかりました」
「でないと、音羽をベッドに誘い辛くなるだろ?」
「へ」
気の抜けた声が漏れる。
一拍後に彼の意図を察して、全身がじわじわと熱くなる。
まさかの理由にたじたじになり、視線を四方へ彷徨わせた。
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