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甘すぎる新婚生活

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「碧斗さん。連れてきてくれてありがとう」

「音羽を幸せにするのが、俺の楽しみだから」

 仕方なく結婚したにもかかわらず、碧斗さんはいつも私を大切にしてくれる。

 夫婦として一緒に暮らす以上、ふたりの仲が円満に越したことはない。
 だから彼は、恋愛感情がなくてもこうして心を砕いてくれるのだろう。

 それがうれしい反面、たまに見せる切なげな表情に、無理をさせてはいないかと心配になる。

「もっと音羽を知りたいんだ。どんなものが好きで、なにに心を躍らせるのか」

 そこまで言われたら、もうたまらない。

「私だって、碧斗さんをもっと知りたいです」

 偽りのない私の本音は、彼にどう伝わるだろうか。

 以前は、ブレーキの利かない自身の気持ちが怖かった。
 けれど、経緯はどうであれ私たちは夫婦になったのだ。碧斗さんに好意を寄せるのは、なにも間違ったことではない。そう正当化して前を向く。

 彼の負担にならないよう私の気持ちを伝えるつもりはないが、お互いを理解し合うくらいは許されるはず。

「ありがとう。そう言ってくれて、うれしいよ。俺には音羽とやってみたいことも行きたい場所もたくさんある。そうだなあ……一緒に日本中を回りたい。なにかスポーツに挑戦するのもいいな。それから映画に水族館、ああ遊園地にも行ってみたい」

 最後に加えられた〝遊園地〟に、車中で交した翔君に関するやりとりが思い起こされるが、あえて触れない方がいいだろう。

 大人な彼らしからぬ願望にも聞こえたが、仕事を離れた碧斗さんの気さくな一面を知っているから違和感は大きくない。
 それよりも、彼の口から次々と挙げられた希望に私の胸も躍る。

「私も、碧斗さんといろんな所へ行きたい」

 彼と一緒なら、なにをしてもどこへ行ってもきっと楽しいに違いない。

「とりあえず、大きなイベントといったら新婚旅行だな。少し先になってしまいそうだが、日程の目途はつけているから」

 フランスで見つけた私の行きつけのバーに連れて行ったら、碧斗さんは気に入ってくれるだろうか。
 あちらに長く暮らしていたにもかかわらず観光はほとんどしていなかったから、定番のスポットも彼と巡ってみたい。

 運ばれてきた出来立てピザを分け合いながら、すっかりふたりの未来に想いを馳せていた。
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