ストーカーと彼女

ココナッツ?

文字の大きさ
上 下
15 / 24

起きてる時にお風呂場で

しおりを挟む
 
(彼女視点)

 彼の手錠を片方ずつ丁寧に外していく。
 彼は、目を見開いて私見ている。

 そんなに驚く事の連続だろうか?

 私が足錠を外す。
 彼は、繋がれていた腕をさすっている。
 私は彼の着物を掴んで脱がそうとする。
 彼はびっくりした様にこっちを向いて私の手をガッと掴む。
 目線は下を向いたまま顔を真っ赤にする。

 あんなに見られた後なのに…っと、先に脱がせておくんだったな…
 しかしまぁ…かわいいな…

 見た目は、痣だらけで、傷だらけで、骨張っていて…だから、普通の人が見たらかわいいなどという反応は帰ってこないだろう。

 私の神経も大分狂っているのかもしれないな…

 震える手で私の手を抑える彼は、軽く涙目である。
 彼の肩に自分の顔を乗せる。
 片方をそっと彼の背中に回し、彼の背中をゆっくりさする。

「大丈夫。怖がらないで…」

 彼の呼吸が何処となくぎこちなくなる。
 彼が吸って、短く吐く様な息を繰り返す。
 泣き出す前の子供でもあやしている気分だ。
 暫くそうしてさすっていると、彼はそのうち震えながらゆっくり、ぎこちなく両手を離した。
 彼の肩から離れる。
 彼の顔を見て、にっこりと笑う。
 彼の着物をゆっくり脱がせていく。
 相変わらず震えているが、私の腕を離した後、彼が腕を動かす事はなかった。
 そのまま脱がし終えると、私は彼の膝下に手を入れお姫様ダッコをする。
 彼の顔を強く自分の方に抱き寄せる。

「お風呂に入ろう」

 震えが止まる。
 彼がこっちを向く。
 目をパチクリとさせている。

 おや?また襲われるとおもってたのかな?

 私はにっこり笑って彼を風呂場まで運ぶ。
 風呂用の椅子に座らせるとキョトンと私をみる。

 ああ、忘れてた…

 リビングまで行って、ラップと大きめのゴムを持ってくる。
 彼はじっと私を見ている。
 彼の前にしゃがむ。

「怪我した方の足出して」

 彼がおずおずと足を出す。
 私は彼の足の傷の部分にラップを巻く。
 きつ過ぎない様に上下をゴムで縛る。

 これで水は染みてこないかな…

 私は立ち上がってシャワーを取った。


(彼視点)

 こんなやり方があるのか…

 彼女が足の傷の周りにラップを巻いていくのを見つめる。
 傷は出来るのがいつもの事だった。
 いつの間にか痛いのを気に留めず風呂に入っていた。
 傷が出来ると、痛いより先に面倒臭いと感じる様になっていた。
 彼女がシャワーを取る。
 彼女が温度を確かめてから、私の頭にシャワーをかける。

「しみない?…ああ、喋れなかったっけ…」

 先にシャワーを止めて、私の轡を取る。

「…」

 私は口を噤んでいる。

「痛かったら、首を縦に降って」

 彼女が私の髪を洗い始める。
 私は手を椅子についたまま下を向く。
 私の髪に丁寧にぬるま湯をかけてく。
 なんとも言えない気分だった。
 なんて言っていいかよくわからない気分だった。
 彼女が手でシャンプーを泡立てる。
 私は丁寧に耳の後ろから髪を洗われる。

 髪を洗って貰うのは、いつ以来だろうか…

 いつか母が亡くなって、自分でやらなくてはいけない事が増えて、ふと、ゴミ出しに行った時にうっかり覗いてしまった家庭の風景。
 自分と同じ年齢位の子供が髪を洗って貰っていた。
 羨ましいな、と思って遠くから一人呆然と眺めいた自分を思い出してしまう。
 思い出すと、いたたまれない気分になった。
 ポロポロと、知らずに涙が出た。
 彼女が洗う手を止める。

「大丈夫?」

 私は、ぎゅっと手に力を入れて首を縦に振る。
 彼女は、シャンプーに濡れた手のまま私の頭をそっと撫でると、また、髪を洗い始めた。
 結局彼女が、私の髪と背中を洗い終わるまで涙は止まらなかった。
 洗い終わってから彼女に耳にを食まれて、赤くなった。
「泣かないで」と耳元で囁かれて、やっと泣き止んだ。
しおりを挟む

処理中です...