冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
12 / 96
第1章 英雄の娘、冒険に出る

011 料理人の卵

しおりを挟む
 鍛練が進む内、観衆は1人。また1人と帰って行った。見てるばかりで退屈だからだ。

 最後まで残っていたボリスとバートは『冒険の支度があるから』と義理堅くリーベに告げて去って行った。

 こうして周囲の熱が失われた一方、冒険者4人はヒートアップしていった。
 2人1組での打ち込みをペアを変えつつ繰り返している。

「ふんっ!」

 エルガーが、ヴァールの太い首元めがけて木剣を振り下ろす。豪速で振るわれるそれはしかし、ごく太い腕に保持された木剣によって受け止められる。

「くっ――だりや!」

 ヴァールは相手の剣を外側へ押しやりつつ、切っ先を喉元へ向ける。そこで勝負は付いたかに思われたが、エルガーは剣を絡めるように、切っ先を下へ向け、鍔と鍔を打つけて押しやった。

 その状態で2人は制止し、睨み合う。

「……へへ! 腕を上げたな、ヴァール」
「師匠こそ、ちっとも鈍ってねえや!」

 2人が仕切り直す一方、その隣ではもう1組が烈戦を繰り広げていた。

 フェアの振り下ろしに対し、フロイデは真っ向から打つからずに、外周から弧を描く形で斬り掛かる。その狙いは振り下ろしを透かした相手の手であった。

 相手の戦闘力を失わせる目的ならば手を切るだけで十分だろう。そう理解したリーベは頷く。

 しかし、フェアはそれを見切っていた。切っ先を攻撃側へと傾けた。これによって相手の剣は鍔で受け止め、負傷を免れることに成功した(もちろん、グローブを装備している)。

 ここからでも発展のしようはあるが、2人は剣を下ろす。

「……ふう、フェアは魔法使いなのに、剣も上手い」

 猫が顔を洗うような仕草で汗を拭いながらフロイデが言う。

 彼が言うとおり、フェアは魔法使いなのだ。 

「ふふ、今まで散々、ヴァールに付き合わされてきましたからね」

 フェアが目を細めたその時、エルガーが声を上げた。

「うっし、こんくらいにしとくか」
「え、もういいの?」

 娘が問うと父は顎の下に伝った汗を拭いながら答える。

「ああ。お前だって退屈だろ?」
「ううん。わたし、稽古を観るの好きだよ?」

 彼女が剣を振るう訳ではないが、稽古を見学する中でふとした発見があるから好きだった。

「そうか?」
「もっとやりたい……!」

 フロイデがやる気をたぎらせる一方で、エルガーは意見を変えるつもりはないようだった。

「悪いが、シェーンを1人に出来ねえからな」

 その言葉にリーベが短い声を上げる。

「あ、そうだった……」
「なんだ? 忘れてたのか?」
「いや、そういう訳じゃ――」
「だはは! ガキはハクジョーだからな!」

 ヴァールは持病の意地悪を起こした。

「もおー! 薄情じゃないよ! ちょっと忘れてただけなんだから!  あと、こどもじゃない!」
「はは、どうだか!」
「むう……!」

 リーベは彼の鼻を明かしたくて仕方なかった。と、その時、妙案を得る。

 時刻はちょうどお昼前。ここは食堂の娘として、1つ本領を発揮してやろうじゃない! と彼女は胸に決めた。







男4人が汗を流しに言っている間に、リーベは母の手を借りることなく、1人で昼食をこしらえることになった。

 台所を乗っ取られたシェーンはというと、鼻歌交じりに縫い物をしていた。彼女は働き者で、休む事を知らないのだ。

(お母さん、少しはゆっくりしたら良いのに)

 そう思いつつ、リーベは気を引き締める。

 料理は刃物や火などを使う大変危険な作業であり、故に集中して臨まねばならないからだ。

「さてと、献立はどうしようか?」

(フロイデさんの好みは分からないけれど、冒険者なんだから、ボリュームのあるものの方が良いとよね? となると……)

「ねえ、油使って良い?」

 ホールにいる母に呼び掛けると、「いいけど、気を付けてね?」と返される。

「はーい!」

(献立はシュニッツェルとマッシュポテト。それにフレアシードのサラダにしよう)

 献立が決まったところで、次にするべきは工程の組み立てだ。何をするにも、効率よく行うに限る。

(ジャガイモを茹でつつ油を温めて……その間にピリ辛ドレッシングと、あとソースを用意をしておこう)

 そうと決まれば、早速調理開始だ。

 リーベは腰のホルダーに挿したワンドを取り出し、魔法で火を点け、鍋に水を張り、洗ったジャガイモを茹で始めた。それから油を――

  それから調理は進み、いよいよ肉を揚げる段階に突入した。
 カラカラと小気味よく響く揚げる音は耳に心地よく、精神疲労の回復に効果があると思われた。自然と気分が良くなり、鼻歌なんかも歌ってしまう。

「ふんふ~ん♪」

 女性陣は1人1枚で十分だが、男性陣はそれでは足りないのは明白だ。取り分け、体の大きなヴァールはたくさん食べるだろう。

 そういうわけで大量にシュニッツェルを用意していると、カウベルが鳴り響く。続いてドヤドヤと入浴を終えてきた面々の声が聞こえてくる。

「ただいまー!」

 エルガーが愉快そうに帰宅を告げる。それに対して「おかえりー!」と大きな声をホールに投げる。

「お、これは油もんだな?」

 即刻気付いたヴァールが舌なめずりをする。

「もうちょっとで出来るからー!」

 そう呼び掛けるとリーベに対し、出来るだけの配膳をしてくれていたシェーンが冗談めかして言う。

「ふふ、もうすっかり料理人ね?」
「だってお母さんの娘だもん。これくらいできなきゃ」
「まあ! ――ふふ、そうね。わたしの娘だものね」

  と、最後の1枚が揚げ上がった。





「いただきます!」

 言うが早いか、ヴァールとフロイデがシュニッツェルに飛びつく。
 ナイフで切り分ける事なく、ソースにべったり付けて、そのままかぶりつく。品は無いが、それだけ素直に食事を楽しんでいると言う事だ。故に誰も注意はしなかった。

「がつがつ……!」
「もっもっ……!」

 体に大小はあれど、2人は共に冒険者である。その食べっぷりは全く同じと言っても差し支えないだろう。
「かーっ! うめえ……!」

 ヴァールは感想を口にした。

「どーお? わたしだって成長してんだから!」
「ああ、見直したぜ」

 食事に夢中で、その口振りはまるで寝言のようだった。 

 だが、それだけに素直な賞賛であり、リーベの自尊心は大いに満たされたのだった。

「そういえば、リーベさんは油を使えるようになったのですね」

 フェアが言うように、リーベは以前まで油を使わせて貰えなかった。理由はもちろん、危ないからだ。
 食堂において大事なのは1に安全、2に衛生で、味や収益はその次に位置する。だから油を使うことが認められるということは、それだけ彼女が信頼されていると言うことであり、些細なことではあるが、リーベにとっては油を使えることは誇りなのだ。

「ええ。リーベも大分成長しましたからね」

 シェーンは誇らしげに言った。賞賛はともかく、身内に褒められるというのは何となく気恥ずかしいもので、リーベは羞恥を誤魔化すべく、主菜を頬張った。

 シュニッツェルは叩いて広げた肉を揚げる料理だが、肉々しさを損ねない程度に叩いているため満足感は高かった。それに加え、トマト、キノコ、レモンの3種類のソースも奥深い味わいに仕上がっていて、揚げた肉によくマッチしていた。

 自分の料理に満足していると、エルガーが訝しい顔でフェアに尋ねる。

「……ちゃんとしたもん食わせてんだろうな?」
「もちろんです。リーベさんほどではありませんが、多少、腕に覚えがありますので」

 その言葉とは裏腹に、エルガーは心配そうにヴァールとフロイデを見やる。

  先ほどまで必死に肉を頬張っていた彼らだが、共に食べる手を止め、蒼い顔をしていた。

「……そうか」

 フェアは大抵の事は人並み以上に熟せる才人であるが、こと料理においては壊滅的な腕前をしていた。そんな事情を以前に聞いていた為、リーベは内心彼らを哀れんだ。

 一方、ヴァールとフロイデは目に見えて咀嚼回数が増えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...