冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
30 / 96
第1章 英雄の娘、冒険に出る

029 リーベ、冒険者になる

しおりを挟む
 家に母を1人残して、リーベとエルガーはヴァールたちの元へと向う。

 道中、相変わらず通行人は少なく、衛兵が行き交うばかりで、リーベにはまるで過疎化してしまったかのように感じられ、悲しくなった。

「…………」
「これがお前の護るものだ。よく見ておけ」

 父の言葉にリーベは息を呑み、街の様子を目に焼き付けながら歩いた。そうして数分の後、2人の目の前には大きな建物が現れる。

 テルドルの建物は大抵が灰色だが、この建物は例外的に仄赤いレンガで建てられている。橫に広い建物で、正面には大きな窓ガラスが張られており、内部には逞しい男たちの姿が見える。

「冒険者ギルド……」
「そうだ」

 短く答えるとエルガーは娘の正面で屈み、目線を合わせて問い掛ける。

「もう後戻りは出来ねえぞ。本当にいいんだな?」
「…………うん……!」
「そうか……」

 彼は物寂しい目をしながらも立ち上がり、リーベを先導して中に入った。

 ギルドは天井の高い建物で、利用者層の割りにオシャレな内装をしている。それは丈夫たちが集うこの物々しい空間に、一般の人が入りすいようにという配慮であった。受付に決まって女性が立っているのもその為だ。

「わあ……」 

 リーベが久々に訪れるギルドの様子を観察する一方、エルガーは弟子の姿を探した。

「ええと、ヴァールは……と。お、いたいた」
「え、どこ?」

 父の視線を追うと、建物に入って右手奥の掲示板の前に大きな背中があった。その隣には中小の背中が並ぶ。

 2人が近づくと3人は振り返った。

「あ、師匠――リーベ……お前…………」

 ヴァールはリーベの目を見据えると、父と同様に覚悟のほどを問うてくる。

「本気なんだな?」
「うん……!」
「……そうか。地獄へようこそ。歓迎するぜ」

 そう言って手を差し伸べてくる。それを握り返すと、フェアとフロイデの方を見る。

「ご迷惑を掛けることもあると思いますけど、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「…………」

 フェアはいつも通り穏やかな笑みを浮かべている。その一方でフロイデは目を丸くし、驚愕を表わしていた。

「それで師匠、リーベはどっちにすんだ?」
「どっち?」

(なんのことだろう?)

「女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ」

 それでいいな? とリーベに呼び掛ける。彼女は会話の意味をようやく理解し、頷いた。

「う、うん……」

 だが本心では、父と同じ剣士になりたかった。しかし、命が掛かっているのだからと、呑み込んだ。不承不承ながらも、自分が魔法を駆使して魔物に対抗する姿を想像すると、自然と胸が高鳴った。

(いけないいけない! 遊びじゃないんだから!)

 かぶりを振って妄念を振り払っていると、フェアが言う。

「では僭越せんえつながら、魔法については私の方からご教示いたしましょう」
「よろしくお願いします」

 彼が微笑む一方、その相棒が言う。

「それじゃ、冒険者登録に行くか」

 エルガーとヴァールと先導されて、リーベは受付へ向かう。道中、周囲の人々がひそひそと彼女を噂する。

「エルガーさんの娘が冒険者になるってウワサは本当だったのか」
「ああ、これでこの街も安泰あんたいだな」

  その言葉を耳にして気恥ずかしさを覚えつつも、身に余る期待に息苦しいものを感じていた。

 考えるまでもなく、今の彼女にはそんな力はない。
 それでも――だからこそ頑張らなければならないのだ。街のみんなの希望になるために。

 決意を新たに受付にやって来ると、カウンターの向こうでは受付嬢のサリーが目を丸くしていた。

「リーベちゃん⁉ まさか……ほんとうに冒険者になるの?」
「はい。これからお世話になります」

 リーベが一礼するとサリーは慌ただしく一礼し返す。

 それから金髪を紺色の制服の襟元でちらちら踊らせながら、親子を交互に見る

「え、エルガーさん。本気なんですか?」 

 振返向いた先でエルガーが頷くと、サリーはようやく現実のことと理解した。

「そ、そうですか……リーベちゃんが…………なんだか、感慨深いです」

 不安な目をした彼女だが、リーベが視線を合わせて頷くと納得し、小さく咳払いをして気持ちを切り替える。

「こほん……ご用件は冒険者登録でお間違いないでしょうか?」
「はい、お願いします」

 サリーはにっこりと微笑むと用紙を取り出した。

「それでは、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
「わかりました」

 名前・性別・出身・住所・生年月日・家族構成・学歴・職業歴・冒険者学校卒業の有無などなど、空欄を埋めていく中で分からないところが出てきた。

「この『指導者名』っていうのは?」
「そちらは指導者――つまり師匠となる方のお名前を記入する欄となっています」

 サリーさんは言いながらヴァールを見やる。

「ああ。だからそこは、俺の名前で良いんだ」

 言われた通りに記入していると、リーベはふと思った。

「新人には必ず師匠がつくんですか?」
「いえ。規則では冒険者学校を卒業していない人に限り、師匠について1年以上の指導を受けなければならない決まりとなっております」
「まあ、学校出てる連中も大抵は師匠につくがな」

 エルガーは苦笑して言う。

(それは多分、純粋に生存率を上げるためなのだろうけど……そうなると、冒険者学校を出る意味って……)

 リーベの中に新たな疑問が芽生える中、ヴァールが彼女の手からペンを抜き取る。

「後は俺が書けば良いんだな」

 ヴァールがペンを走らせると、用紙には手紙で見た『ショドウ』めいた文字が刻まれていった。リーベが彼の手元を観察している間に記入は終わり、それをサリーが確認する。

 それから彼女は奇妙な見た目をした器具を取り出す。

 真ん中には計器があり、その左右には棒状の取っ手が取り付けられている。

 リーベが見慣れぬ器具に興味を惹かれていると、サリーが説明する。

「こちらは魔力測定器です。魔力量の多寡たかが冒険者登録に影響することはございませんが、参考までに測定させて頂く決まりとなっております。差し支えがないようでしたら、左右の取っ手を握ってください」
「わかりました」

 言われるまま取っ手を握り込むと、続いて力を抜くように言われた。

 すると真ん中の計器がグルグルと回り、3周半と少し回転した。

「361と……」
「あの、これって多い方なんですか?」
「いいえ。成人女性の平均が400ほどですので、リーベちゃんはやや魔力が低い傾向にあるみたいですね」
「そんな……」

(これから魔法使いになるというのに……)

 リーベがため息をつくとサリーが慌てて付け加える。

「ですが! 成人男性の平均が300ですので、魔法使いとしての適正が高いことに変わりはありません!」
「そ、そうなんですか」

(そういえばさっき、お父さんが『女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ』って言っていたのはこのことか)

 リーベは男女で魔力量の平均が異なることは知っていたが、100も違うのかと感心した……その100がどの程度の差なのか、数字以上にはわからないのだが。

「このまま冒険者カードの作成に移らせていただきます。発行までに少々お時間を頂きますので、掛けてお待ちください」
「はい、よろしくお願いします」

 その言葉を最後に3人は受付を離れ、フェアたちの元へ戻る。

「どうやら無事に手続きを終えられたようですね」

 フェアが微笑む一方、エルガーは深い溜め息をつく。

「ああ……終わったな」

 リーベは娘として、その様子に申し訳ない思いでいっぱいだったが、陰気に負けてはいけないと自己を奮い立たせる。

(わたしは英雄の娘として、みんなの希望にならないといけないんだから!)

「あの! わたしも次の冒険に連れて行ってもらえるんですか?」

 勢いに任せて言うと、ヴァールが苦笑する。

「そうはやんなって。まだ道具とかも準備できてねえんだろ?」
「あ……そうだった」

 彼女があんぐりとすると、ヴァールは微笑みながら頭を掻いた。

「たく。そんな無計画じゃあ、先が思いやられるぜ」

(おじさんに無計画だと言われるなんて……)

 リーベが若干の敗北感を抱いていると、彼は仲間の方へ小さな瞳を向ける。

「んで。お前らはなんか良いもん見つけたか?」

 その問い掛けにフロイデが短く答えながら依頼書を取り出す。

「これ」
「どれどれ」

 リーベはつま先立ちになって横から依頼書を覗き込むと、『フライバーンの討伐』とあった。

「ふらいばーん?」
「馬鹿でかいトンボだ。飛んでるだけで暴風を起こす厄介なヤツなんだよ」
「へえ……」

(フライパンみたいな名前……)

 そんなくだらないことを考えている間にも冒険者3人は依頼を受けるため受付へ向かっていった。
 エルガーは彼らを見送ることなく娘に言う。

「リーベ。お前が戦うのはああいう化け物連中だってことを、よく頭に入れておくんだぞ?」
「う、うん……!」

 意気込んだその時、サリーに呼ばれた。冒険者カードが出来たのだ。

 リーベはわくわくさせられたが、そればかりではいけないと気を引き締めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...