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第1章 英雄の娘、冒険に出る
029 リーベ、冒険者になる
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家に母を1人残して、リーベとエルガーはヴァールたちの元へと向う。
道中、相変わらず通行人は少なく、衛兵が行き交うばかりで、リーベにはまるで過疎化してしまったかのように感じられ、悲しくなった。
「…………」
「これがお前の護るものだ。よく見ておけ」
父の言葉にリーベは息を呑み、街の様子を目に焼き付けながら歩いた。そうして数分の後、2人の目の前には大きな建物が現れる。
テルドルの建物は大抵が灰色だが、この建物は例外的に仄赤いレンガで建てられている。橫に広い建物で、正面には大きな窓ガラスが張られており、内部には逞しい男たちの姿が見える。
「冒険者ギルド……」
「そうだ」
短く答えるとエルガーは娘の正面で屈み、目線を合わせて問い掛ける。
「もう後戻りは出来ねえぞ。本当にいいんだな?」
「…………うん……!」
「そうか……」
彼は物寂しい目をしながらも立ち上がり、リーベを先導して中に入った。
ギルドは天井の高い建物で、利用者層の割りにオシャレな内装をしている。それは丈夫たちが集うこの物々しい空間に、一般の人が入りすいようにという配慮であった。受付に決まって女性が立っているのもその為だ。
「わあ……」
リーベが久々に訪れるギルドの様子を観察する一方、エルガーは弟子の姿を探した。
「ええと、ヴァールは……と。お、いたいた」
「え、どこ?」
父の視線を追うと、建物に入って右手奥の掲示板の前に大きな背中があった。その隣には中小の背中が並ぶ。
2人が近づくと3人は振り返った。
「あ、師匠――リーベ……お前…………」
ヴァールはリーベの目を見据えると、父と同様に覚悟のほどを問うてくる。
「本気なんだな?」
「うん……!」
「……そうか。地獄へようこそ。歓迎するぜ」
そう言って手を差し伸べてくる。それを握り返すと、フェアとフロイデの方を見る。
「ご迷惑を掛けることもあると思いますけど、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「…………」
フェアはいつも通り穏やかな笑みを浮かべている。その一方でフロイデは目を丸くし、驚愕を表わしていた。
「それで師匠、リーベはどっちにすんだ?」
「どっち?」
(なんのことだろう?)
「女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ」
それでいいな? とリーベに呼び掛ける。彼女は会話の意味をようやく理解し、頷いた。
「う、うん……」
だが本心では、父と同じ剣士になりたかった。しかし、命が掛かっているのだからと、呑み込んだ。不承不承ながらも、自分が魔法を駆使して魔物に対抗する姿を想像すると、自然と胸が高鳴った。
(いけないいけない! 遊びじゃないんだから!)
かぶりを振って妄念を振り払っていると、フェアが言う。
「では僭越ながら、魔法については私の方からご教示いたしましょう」
「よろしくお願いします」
彼が微笑む一方、その相棒が言う。
「それじゃ、冒険者登録に行くか」
エルガーとヴァールと先導されて、リーベは受付へ向かう。道中、周囲の人々がひそひそと彼女を噂する。
「エルガーさんの娘が冒険者になるってウワサは本当だったのか」
「ああ、これでこの街も安泰だな」
その言葉を耳にして気恥ずかしさを覚えつつも、身に余る期待に息苦しいものを感じていた。
考えるまでもなく、今の彼女にはそんな力はない。
それでも――だからこそ頑張らなければならないのだ。街のみんなの希望になるために。
決意を新たに受付にやって来ると、カウンターの向こうでは受付嬢のサリーが目を丸くしていた。
「リーベちゃん⁉ まさか……ほんとうに冒険者になるの?」
「はい。これからお世話になります」
リーベが一礼するとサリーは慌ただしく一礼し返す。
それから金髪を紺色の制服の襟元でちらちら踊らせながら、親子を交互に見る
「え、エルガーさん。本気なんですか?」
振返向いた先でエルガーが頷くと、サリーはようやく現実のことと理解した。
「そ、そうですか……リーベちゃんが…………なんだか、感慨深いです」
不安な目をした彼女だが、リーベが視線を合わせて頷くと納得し、小さく咳払いをして気持ちを切り替える。
「こほん……ご用件は冒険者登録でお間違いないでしょうか?」
「はい、お願いします」
サリーはにっこりと微笑むと用紙を取り出した。
「それでは、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
「わかりました」
名前・性別・出身・住所・生年月日・家族構成・学歴・職業歴・冒険者学校卒業の有無などなど、空欄を埋めていく中で分からないところが出てきた。
「この『指導者名』っていうのは?」
「そちらは指導者――つまり師匠となる方のお名前を記入する欄となっています」
サリーさんは言いながらヴァールを見やる。
「ああ。だからそこは、俺の名前で良いんだ」
言われた通りに記入していると、リーベはふと思った。
「新人には必ず師匠がつくんですか?」
「いえ。規則では冒険者学校を卒業していない人に限り、師匠について1年以上の指導を受けなければならない決まりとなっております」
「まあ、学校出てる連中も大抵は師匠につくがな」
エルガーは苦笑して言う。
(それは多分、純粋に生存率を上げるためなのだろうけど……そうなると、冒険者学校を出る意味って……)
リーベの中に新たな疑問が芽生える中、ヴァールが彼女の手からペンを抜き取る。
「後は俺が書けば良いんだな」
ヴァールがペンを走らせると、用紙には手紙で見た『ショドウ』めいた文字が刻まれていった。リーベが彼の手元を観察している間に記入は終わり、それをサリーが確認する。
それから彼女は奇妙な見た目をした器具を取り出す。
真ん中には計器があり、その左右には棒状の取っ手が取り付けられている。
リーベが見慣れぬ器具に興味を惹かれていると、サリーが説明する。
「こちらは魔力測定器です。魔力量の多寡が冒険者登録に影響することはございませんが、参考までに測定させて頂く決まりとなっております。差し支えがないようでしたら、左右の取っ手を握ってください」
「わかりました」
言われるまま取っ手を握り込むと、続いて力を抜くように言われた。
すると真ん中の計器がグルグルと回り、3周半と少し回転した。
「361と……」
「あの、これって多い方なんですか?」
「いいえ。成人女性の平均が400ほどですので、リーベちゃんはやや魔力が低い傾向にあるみたいですね」
「そんな……」
(これから魔法使いになるというのに……)
リーベがため息をつくとサリーが慌てて付け加える。
「ですが! 成人男性の平均が300ですので、魔法使いとしての適正が高いことに変わりはありません!」
「そ、そうなんですか」
(そういえばさっき、お父さんが『女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ』って言っていたのはこのことか)
リーベは男女で魔力量の平均が異なることは知っていたが、100も違うのかと感心した……その100がどの程度の差なのか、数字以上にはわからないのだが。
「このまま冒険者カードの作成に移らせていただきます。発行までに少々お時間を頂きますので、掛けてお待ちください」
「はい、よろしくお願いします」
その言葉を最後に3人は受付を離れ、フェアたちの元へ戻る。
「どうやら無事に手続きを終えられたようですね」
フェアが微笑む一方、エルガーは深い溜め息をつく。
「ああ……終わったな」
リーベは娘として、その様子に申し訳ない思いでいっぱいだったが、陰気に負けてはいけないと自己を奮い立たせる。
(わたしは英雄の娘として、みんなの希望にならないといけないんだから!)
「あの! わたしも次の冒険に連れて行ってもらえるんですか?」
勢いに任せて言うと、ヴァールが苦笑する。
「そう逸んなって。まだ道具とかも準備できてねえんだろ?」
「あ……そうだった」
彼女があんぐりとすると、ヴァールは微笑みながら頭を掻いた。
「たく。そんな無計画じゃあ、先が思いやられるぜ」
(おじさんに無計画だと言われるなんて……)
リーベが若干の敗北感を抱いていると、彼は仲間の方へ小さな瞳を向ける。
「んで。お前らはなんか良いもん見つけたか?」
その問い掛けにフロイデが短く答えながら依頼書を取り出す。
「これ」
「どれどれ」
リーベはつま先立ちになって横から依頼書を覗き込むと、『フライバーンの討伐』とあった。
「ふらいばーん?」
「馬鹿でかいトンボだ。飛んでるだけで暴風を起こす厄介なヤツなんだよ」
「へえ……」
(フライパンみたいな名前……)
そんなくだらないことを考えている間にも冒険者3人は依頼を受けるため受付へ向かっていった。
エルガーは彼らを見送ることなく娘に言う。
「リーベ。お前が戦うのはああいう化け物連中だってことを、よく頭に入れておくんだぞ?」
「う、うん……!」
意気込んだその時、サリーに呼ばれた。冒険者カードが出来たのだ。
リーベはわくわくさせられたが、そればかりではいけないと気を引き締めた。
道中、相変わらず通行人は少なく、衛兵が行き交うばかりで、リーベにはまるで過疎化してしまったかのように感じられ、悲しくなった。
「…………」
「これがお前の護るものだ。よく見ておけ」
父の言葉にリーベは息を呑み、街の様子を目に焼き付けながら歩いた。そうして数分の後、2人の目の前には大きな建物が現れる。
テルドルの建物は大抵が灰色だが、この建物は例外的に仄赤いレンガで建てられている。橫に広い建物で、正面には大きな窓ガラスが張られており、内部には逞しい男たちの姿が見える。
「冒険者ギルド……」
「そうだ」
短く答えるとエルガーは娘の正面で屈み、目線を合わせて問い掛ける。
「もう後戻りは出来ねえぞ。本当にいいんだな?」
「…………うん……!」
「そうか……」
彼は物寂しい目をしながらも立ち上がり、リーベを先導して中に入った。
ギルドは天井の高い建物で、利用者層の割りにオシャレな内装をしている。それは丈夫たちが集うこの物々しい空間に、一般の人が入りすいようにという配慮であった。受付に決まって女性が立っているのもその為だ。
「わあ……」
リーベが久々に訪れるギルドの様子を観察する一方、エルガーは弟子の姿を探した。
「ええと、ヴァールは……と。お、いたいた」
「え、どこ?」
父の視線を追うと、建物に入って右手奥の掲示板の前に大きな背中があった。その隣には中小の背中が並ぶ。
2人が近づくと3人は振り返った。
「あ、師匠――リーベ……お前…………」
ヴァールはリーベの目を見据えると、父と同様に覚悟のほどを問うてくる。
「本気なんだな?」
「うん……!」
「……そうか。地獄へようこそ。歓迎するぜ」
そう言って手を差し伸べてくる。それを握り返すと、フェアとフロイデの方を見る。
「ご迷惑を掛けることもあると思いますけど、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「…………」
フェアはいつも通り穏やかな笑みを浮かべている。その一方でフロイデは目を丸くし、驚愕を表わしていた。
「それで師匠、リーベはどっちにすんだ?」
「どっち?」
(なんのことだろう?)
「女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ」
それでいいな? とリーベに呼び掛ける。彼女は会話の意味をようやく理解し、頷いた。
「う、うん……」
だが本心では、父と同じ剣士になりたかった。しかし、命が掛かっているのだからと、呑み込んだ。不承不承ながらも、自分が魔法を駆使して魔物に対抗する姿を想像すると、自然と胸が高鳴った。
(いけないいけない! 遊びじゃないんだから!)
かぶりを振って妄念を振り払っていると、フェアが言う。
「では僭越ながら、魔法については私の方からご教示いたしましょう」
「よろしくお願いします」
彼が微笑む一方、その相棒が言う。
「それじゃ、冒険者登録に行くか」
エルガーとヴァールと先導されて、リーベは受付へ向かう。道中、周囲の人々がひそひそと彼女を噂する。
「エルガーさんの娘が冒険者になるってウワサは本当だったのか」
「ああ、これでこの街も安泰だな」
その言葉を耳にして気恥ずかしさを覚えつつも、身に余る期待に息苦しいものを感じていた。
考えるまでもなく、今の彼女にはそんな力はない。
それでも――だからこそ頑張らなければならないのだ。街のみんなの希望になるために。
決意を新たに受付にやって来ると、カウンターの向こうでは受付嬢のサリーが目を丸くしていた。
「リーベちゃん⁉ まさか……ほんとうに冒険者になるの?」
「はい。これからお世話になります」
リーベが一礼するとサリーは慌ただしく一礼し返す。
それから金髪を紺色の制服の襟元でちらちら踊らせながら、親子を交互に見る
「え、エルガーさん。本気なんですか?」
振返向いた先でエルガーが頷くと、サリーはようやく現実のことと理解した。
「そ、そうですか……リーベちゃんが…………なんだか、感慨深いです」
不安な目をした彼女だが、リーベが視線を合わせて頷くと納得し、小さく咳払いをして気持ちを切り替える。
「こほん……ご用件は冒険者登録でお間違いないでしょうか?」
「はい、お願いします」
サリーはにっこりと微笑むと用紙を取り出した。
「それでは、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
「わかりました」
名前・性別・出身・住所・生年月日・家族構成・学歴・職業歴・冒険者学校卒業の有無などなど、空欄を埋めていく中で分からないところが出てきた。
「この『指導者名』っていうのは?」
「そちらは指導者――つまり師匠となる方のお名前を記入する欄となっています」
サリーさんは言いながらヴァールを見やる。
「ああ。だからそこは、俺の名前で良いんだ」
言われた通りに記入していると、リーベはふと思った。
「新人には必ず師匠がつくんですか?」
「いえ。規則では冒険者学校を卒業していない人に限り、師匠について1年以上の指導を受けなければならない決まりとなっております」
「まあ、学校出てる連中も大抵は師匠につくがな」
エルガーは苦笑して言う。
(それは多分、純粋に生存率を上げるためなのだろうけど……そうなると、冒険者学校を出る意味って……)
リーベの中に新たな疑問が芽生える中、ヴァールが彼女の手からペンを抜き取る。
「後は俺が書けば良いんだな」
ヴァールがペンを走らせると、用紙には手紙で見た『ショドウ』めいた文字が刻まれていった。リーベが彼の手元を観察している間に記入は終わり、それをサリーが確認する。
それから彼女は奇妙な見た目をした器具を取り出す。
真ん中には計器があり、その左右には棒状の取っ手が取り付けられている。
リーベが見慣れぬ器具に興味を惹かれていると、サリーが説明する。
「こちらは魔力測定器です。魔力量の多寡が冒険者登録に影響することはございませんが、参考までに測定させて頂く決まりとなっております。差し支えがないようでしたら、左右の取っ手を握ってください」
「わかりました」
言われるまま取っ手を握り込むと、続いて力を抜くように言われた。
すると真ん中の計器がグルグルと回り、3周半と少し回転した。
「361と……」
「あの、これって多い方なんですか?」
「いいえ。成人女性の平均が400ほどですので、リーベちゃんはやや魔力が低い傾向にあるみたいですね」
「そんな……」
(これから魔法使いになるというのに……)
リーベがため息をつくとサリーが慌てて付け加える。
「ですが! 成人男性の平均が300ですので、魔法使いとしての適正が高いことに変わりはありません!」
「そ、そうなんですか」
(そういえばさっき、お父さんが『女なんだし、魔法使いの方が向いてるだろうよ』って言っていたのはこのことか)
リーベは男女で魔力量の平均が異なることは知っていたが、100も違うのかと感心した……その100がどの程度の差なのか、数字以上にはわからないのだが。
「このまま冒険者カードの作成に移らせていただきます。発行までに少々お時間を頂きますので、掛けてお待ちください」
「はい、よろしくお願いします」
その言葉を最後に3人は受付を離れ、フェアたちの元へ戻る。
「どうやら無事に手続きを終えられたようですね」
フェアが微笑む一方、エルガーは深い溜め息をつく。
「ああ……終わったな」
リーベは娘として、その様子に申し訳ない思いでいっぱいだったが、陰気に負けてはいけないと自己を奮い立たせる。
(わたしは英雄の娘として、みんなの希望にならないといけないんだから!)
「あの! わたしも次の冒険に連れて行ってもらえるんですか?」
勢いに任せて言うと、ヴァールが苦笑する。
「そう逸んなって。まだ道具とかも準備できてねえんだろ?」
「あ……そうだった」
彼女があんぐりとすると、ヴァールは微笑みながら頭を掻いた。
「たく。そんな無計画じゃあ、先が思いやられるぜ」
(おじさんに無計画だと言われるなんて……)
リーベが若干の敗北感を抱いていると、彼は仲間の方へ小さな瞳を向ける。
「んで。お前らはなんか良いもん見つけたか?」
その問い掛けにフロイデが短く答えながら依頼書を取り出す。
「これ」
「どれどれ」
リーベはつま先立ちになって横から依頼書を覗き込むと、『フライバーンの討伐』とあった。
「ふらいばーん?」
「馬鹿でかいトンボだ。飛んでるだけで暴風を起こす厄介なヤツなんだよ」
「へえ……」
(フライパンみたいな名前……)
そんなくだらないことを考えている間にも冒険者3人は依頼を受けるため受付へ向かっていった。
エルガーは彼らを見送ることなく娘に言う。
「リーベ。お前が戦うのはああいう化け物連中だってことを、よく頭に入れておくんだぞ?」
「う、うん……!」
意気込んだその時、サリーに呼ばれた。冒険者カードが出来たのだ。
リーベはわくわくさせられたが、そればかりではいけないと気を引き締めた。
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