冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
52 / 96
第1章 英雄の娘、冒険に出る

051 初めての冒険

しおりを挟む
 体を揺さぶられ、夢の世界から転落してきたリーベは眠い目を擦りながら身を起こす。

 するとそこには父がいた。彫りの深い顔はランプの明かりを受けて色濃く影を落としていて、その物々しさに彼女は驚かされた。

「ひゃっ⁉ ……もお、びっくりさせないでよ」

  ホッと胸を撫で下ろしていると、エルガーの張り詰めた声が降ってくる。

「そろそろ起きねえと、飯食う時間がなくなるぞ?」
「あ……うん。わかったよ」
「んじゃ、着替えたら下に来い」

 そう言い残すと彼は部屋を出て行った。1人取り残された彼女はランプを点け、ダンクを壁の方に向けると冒険用の服に着替えた。

「…………ダンク」

 リーベは親友を抱えるとギュッと抱きしめ、大きな頭の匂いを嗅いだ。

(もしかしたら、もう二度と会えないのかもしれない……)

 そんな恐ろしい想像を振り払うように、彼女は勢いよく顔を離した。

「お留守番、お願いね?」

 くりくりの瞳を見据えて言いつけると、狭い額にキスをした。





 時刻は4時半過ぎ。
 普段ならホールには誰もおらず、しゃべり声などしないだろう。あったとしても、エルガーがつまみ食いしようとして妻に怒られてるときくらいだ。

 だからこの時間に家族全員がホールに集まり、言葉を交わしているのはエーアステ一家にとって、大変異例なことなのだ。

「体調は大丈夫?」

 シェーンが心配を隠すことなく娘に問い掛ける。

「たっぷり寝たからね、元気満点だよ」

 リーベは自らの言葉を証明するべく、母が特別に用意してくれたトマト煮を掻き込んで見せる。しかし母の眉は垂れたままで、その口から出る言葉もやはり、か細いものだった。

「なら、良いんだけど……」
「まったく、シェーンは心配症だな」

 エルガーの言葉はいつも以上に陽気なトーンをしているがしかし、その気遣いは妻の繊細な心を一層不安なものにしてしまうのだった。

「…………母親ですもの」

 ぼそりと呟いただけの言葉が、いやに大きく響いた。それは沈黙を呼び込み、リーベの――一家の胸を重く圧していく。

「お母さん……」

 リーベにはもちろん子供はおらず、故に両親の心労は想像することしかできない。だが自分の娘が冒険者となり、これから魔物と戦いに行くとなっては、心穏やかでいられるわけがないとは自覚していた。

(でも……それでも、わたしは冒険者なんだ)

 例えどんなに心配されようとも、それを振り切って魔物に挑まなければならない。それは心配する側も、される側も、どちらにとっても辛い事なのだ。

 だからせめて、その心配が少しでも和らいでくれればいいのだが……そう思って言葉を足す。

「おじさんたちが一緒なんだから、大丈夫だよ」

 気休めの言葉に対し、母はやつれた笑みを浮かべた。

「……そうね」

 一瞬の沈黙を経て、父が言う。

「ほら、さっさと食わねえとアイツらが来ちまうぞ?」
「あ、いけない!」

 リーベは慌てて食事を再開した。
 




「ふう……ごちそうさまでした」 

  トマト煮を平らげた時、時刻は五時を回ろうとしていた。仲間たちは5時に迎えに来ると言っていたから、そろそろ到着するだろう。そんな緊張からリーベがそわそわしていると、皿を回収しながら父エルガーが問うてくる。

「忘れ物はねえか?」
「あ、うん。大丈夫だよ。手伝うよ」

 腰を浮かせるも「お前は休んでろ」と言われてしまった。父が厨房へ向う一方、ホールに残された母子の間には気まずい沈黙が流れた。

 このままではシェーンの不安が大きくなるのは明らかで、だからリーベは努めて穏やかに、なんてことない話題を振った。

「わたしが抜けてからお店はどう? ちゃんと回ってる?」
「ええ。お父さんが頑張ってくれてるお陰よ」
「そうなんだ」

(1人で給仕をするのは中々に大変なのに、さすがお父さん)

 何をやらせても優秀な父を誇らしく思う一方で、もう食堂には自分の居場所がないように思えてしまい、悲しくなった。すると母が娘の手を取り、子守歌のような優しい声で言う。

「リーベ。街のみんなのために冒険者になろうと思ったあなたは立派よ。でも、だからって無理をする事はないわ。頑張って頑張って、それでもダメだってなった時は、ここに戻っておいで。ここはあなたのお家なんだから」

  その言葉は母としての優しさと個人的な願望が混合したものだった。

 それを人は本音という。

 シェーンの心からの言葉を聞けて、リーベの胸は温かい気持ちでいっぱいになった。

「……ありがと。どうしてもの時はそうするね――」

 ゴンゴン!

 不意に響いたノッカーの音に、リーベもシェーンもビクリと跳ね上がった。

 振り返るも、窓は鎧戸が閉められていて、外にいる人物が誰か知ることはできない。だがこの時間に彼らが訪れることをわたしたちは知っていた。

  リーベはチラリと母を見ると、苦しそうに唇を噛み締めていた。

 しかし次の瞬間、意を決したように立ち上がると、娘に「準備をしなさい」と言い残し、自らはドアへと向った。

「はーい」


 呼び掛けながらドアを開放すると同時に、ホールには低音が響き渡る。
「よう、シェーン。リーベはいるか?」
「ええ――リーベ、ヴァールさんたちが迎えにいらしたわよ」

 シェーンが娘に振り向くと同時にヴァールが顔を覗かせた。

「あ、ちょっと待って!」

 慌てて荷物を抱えるとヴァールの方へ駆け寄る。

 表には彼以外にフェアとフロイデの姿があり、彼らは揃って旅装だった。それは彼女も同じであり、故に『これからみんなで一緒に冒険に出るんだ』と強く実感できた。

「お、おはよう、ございます……!」
「はは! なに固くなってんだよ!」

 ヴァールが笑う声にカーッと顔が熱くなる。

「お、来たか」

 皿洗いを終え、厨房から戻ってきたエルガーは弟子たちに挨拶すると改まって言う。

「リーベを頼んだぞ」
「ああ。擦り傷1つ許さねえから安心しな」

 ヴァールは頼もしげに言うと弟子を見て、母の方へ顎をしゃくった。
  それを受けてリーベがシェーンを見やると、彼女目には不安の色だけが浮かんでいた。この場にヴァールたちがいなければ果てし無い不安感に涙していたことだろう。

 これほど繊細な心を持つ母に心労を負わせてしまうことに罪悪感が募るが、それでもリーベは行かなければならない。テルドルの希望になるために。

「……お母さん、お父さん。行ってきます…………!」

 精一杯の笑顔を繕って言うと、両親は不安を笑顔の陰に潜めて返答する。

「いってらっしゃい!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...