冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
77 / 79
第2章 旅立ちの時

076 もふもふリターンズ

しおりを挟む
 太陽が天頂を過ぎた頃、冒険者一行は無事にセロン村に帰り着いた。

 出迎えてくれた村人たちは皆、ヴァールの担いでいたハイベックスの大きさに、あるいはそんな大物を担ぎあげている事に驚嘆し、継いで歓喜した。

  わいわいガヤガヤと一帯が騒がしくなると、村長が杖を突きながらやって来た。

「相変わらず仕事が早いな。さすがエルガーくんの弟子だ」
「そりゃどうも。だが生憎と、俺はなんもしてねえよ。礼ならコイツらに言ってくれ」

 親指で弟子たちを指し示し、弛んだまぶたをカッと見開き瞠目した。

「なに? まさか、リーベちゃんが⁉」

 その驚きように恥ずかしくなったリーベは頬をポリポリと掻きながら「ま、まあ」と乾いた笑いを発しながら答える。

「おお! 冒険者になったばかりでハイベックスを倒すとは、さすがエルガーくんの娘だ」

 村長が満足げに笑う中、フロイデが不服そうに告げる。

「ぼくも戦った……!」
「おや、これは失敬。お前も若いのにやるみたいだな?」
「むふーっ!」

 彼が鼻息と共に小さな胸を這ったその時、村の北側の方がにわかに騒がしくなった。

「おや、到着したようですね」

 フェアの言葉にリーベは期待を膨らませ、振り向く。南北を結ぶ通りの左右に家屋が並んでおり、通りの上には衆目を一身に集める純白のもふもふがいた。凛と澄んだ瞳、上品に尖った顔立ち、三角の耳、その脇から連なる雪花せっかの如き長毛……あれはソキウスであり、愛しのアデライドだった。

「アデライド~っ!」

 大角を持っているため、腕を振る代わりにピョンピョン跳ぶと、彼は気付いた。

「ウォン!」

 とことこと、大柄でありながら無邪気な仕草で歩み寄ってくると、その大きな顔を寄せてきた。

「ヴォフ……」

 しかし、残念な事に今、リーベは両手が塞がってる。そんなワケで頬ずりするだけに留めた。

「おすわり!」

 相棒の指示にハッとしたアデライドは、短く鳴いてその大きな尻を下ろした。程なくしてアデライドの背後から騎手であるスヴェンが表われる。彼はややぽっちゃりとした顔をにっこりと歪めて冗談めかして言う。

「いやはや、リーベちゃんにすっかり懐いちゃったみたいで。リーベちゃん、君はきっと加工場も向いてるよ。だから加工場に転職してみない?」

 その提案は大変魅力的だった。なぜなら堂々と、毎日ソキウスをもふもふ出来るのだから。

 でもリーベは冒険者。父のように街のみんなの希望になるため邁進し続けるのが使命なのだ。

「はは、素敵なご提案ですけど、遠慮しておきます」
「そうかい? いつでも歓迎するよ」

 カラカラ笑うと彼はヴァールの肩に担がれたそれに気付いた。

「や! ここまで運んできたんですか⁉」
「あんなとこで待ってても仕方ねえからな」
「まったく、型破りな人ですね。そういう事なら是非、荷車まで運んでいただきましょうか」
「おう。いくぞ、チビ共」
「チビじゃない……!」

 反論しつつもフロイデはヴァールの後をアヒルの子のようについていった。だからリーベはアデライドを名残惜しく思いつつ、それに続いた。

「お願いします」

 大角を差し出すとスヴェンは受け取りつつ尋ねてくる。

「これもヴァールさんたちが倒したの?」
「いえ、フロイデさんとわたしで――」
「そうなの⁉ 俺は冒険者じゃないけど、ハイベックスは中々厄介な魔物って聞くよ。それを冒険者になったばかりの君が倒したなんて知ったら、きっとみんなビックリするよ!」
「そ、そうでしょうか?」

 照れくさくなって目線を背けると「ああ」と彼は言う。

「俺は黙ってるから、帰ったらみんなを驚かせてあげてね? ――さ、お別れの前にアデライドと遊んであげて」
「え、いいんですか?」
「もちろん。これを縛ってる間、コイツは暇だからね」
「やった! ありがとうございます!」

 リーベは意気揚々とアデライドの前に回り込んだ。

「おいでー」

 グローブを外した両手を差し伸べると、その大きな顔を寄せてきた。

(ああ……これだよこれ)

 滑らかな手触りとその温もりは何にも代えがたい。もちろんダンクも高いモフリティをもつが、彼のそれとはまた違った趣があった。

 抱きしめながらもふもふしていると、フロイデが羨ましそうに見つめているのに気付く。

「フロイデさんも一緒にもふもふしましょうよ!」
「で、でも……」

 彼はアデライドを――ソキウスを恐れる素振りをした。

「ねえアデライド、フロイデさんもいいでしょ?」

 そう尋ねると彼は鼻先をフロイデの方に向け、逡巡する。それからしばらくの後――

「ガルルル……!」

 歯をむき出しにして威嚇をし始めた。

 するとフロイデはしょんぼりと項垂れ、負け惜しみするようにぼそりと呟く。
「ぼくは猫派だから……」
「それがいけなかったのかもしれませんね」

 傍らにいたフェアが苦笑交じりにそう言った。

「もお、アデライドったら。威嚇しちゃダメでしょ?」

……叱りつつも、リーベは独占欲を満たされて安堵したのだった。

 心の中でフロイデに詫びていると、ハイベックスを荷車に固定し終えたヴァールとスヴェンさんが話しながらやって来る。

「今回はスペースも空いてることですし、どうです? 乗っていきますか?」
「乗るって、アデライドの後ろにですか⁉」

 思わず口を挟むとスヴェンは「そうだよ」と微笑んだ。

(荷車に乗って、アデライドが一生懸命走る姿を堪能できるなんて……こんなに素敵な事はない!)

「ジ~……」

 リーベは期待を込めて師匠を見やるも、彼はは大きな手を腰に当ててこれを断った。

「え~、なんで~?」
「お前の体力を付けるためだ――そういうことだから、お前らは先に帰っててくれ」
「わかりました」

 スヴェンは冒険者一行を見回す。

「それじゃ、お先に失礼します――アデライド。リーベちゃんに挨拶しな」
「ウォン!」
「またね、アデライド」

 2人は大小の鼻先をちょんと突き合わせ、別れの挨拶とした。

 その大きな尻尾が風になびくのを見送ると、村長が溜め息と共に言う。

「あのソキウスとは長いのか?」
「いえ。前回の冒険で初めて会いました」
「そうか……あの気難しいソキウスと打ち解けるなんてな。やはり器かもしれんな」
「そんな! 犬派だからですよ!」

 謙遜ではなく、これこそが真理だとリーベは思っていた。人間でも言えることだけれども、好意というのは対面しただけでも伝わるものなのだ。

「なるほどな……そういえばエルガーくんは『リーベは犬が好きなんだ』って話してたっけな」

 村長さん細長い顎を扱きながら微笑むと「立ち話はなんだ。うちへいらっしゃい」と招待した。冒険者たちはお招きに預かることとなり、村長が杖を突くのに合せ、ゆっくりと自宅を目指した。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

処理中です...