冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!

森丘どんぐり

文字の大きさ
79 / 96
第2章 旅立ちの時

078 努力の仕方

しおりを挟む
 リーベはベッドを愛おしむ思いを振り切り身支度を整え、重たいリュックを背負い、貸屋を出た。外は日が登り始めたばかりということもあり、村は薄闇に覆われていた。しかしセロン村の人々は朝が早く、狩りや林業の支度をしている姿が散見された。

「おはよー!」

 近所の青年が手を上げ、陽気な挨拶をしてくれた。だからリーベも手を上げ、挨拶を返す。

「おはようございま――ふぁああ……」

 途中、欠伸に呑まれてしまったが、彼は気付かなかったようで、自分の仕事に戻っていった。

「ふふ。早起きはまだまだ苦手のようですね」

 フェアがくすりと笑うその傍らでフロイデが勝ち誇ったように言う。

「まだまだ、だね……!」

 彼の言葉を裏付けるように再び欠伸がこみ上げてきて、リーベは自分の体が如何に睡眠を欲しているかを思い知らされた。だがその要求を呑むわけにはいかない。なぜなら今から、その対極にあるようなことをしなければならないのだから。

「まったく、歩きながら寝たりすんなよ?」
「しないよ――ふぁあ……」

 3度目のあくびがかみ殺す脇で、ヴァールはやってきた村長に挨拶をしていた。

「おはようさん」
「ああ、おはよう。相変わらず早いんだな」

 村長はくすりと笑うと自宅を示した。

「朝飯の用意ができたから呼びに来たんだ。どうせ今日もさっさと帰っちまうんだろ?」
「まあな」
「だったら今のうち腹を満たしておくべきだ」

 そういった経緯で冒険者一行は朝食をいただくことになった。

 セロン村は狩りで生計を立てているということもあり、朝食には肉が多く使われていた。

 今朝はスープの具として干し肉が使われていたが、それは冒険者たちが携行しているものとは違い、しっかりと『食べる為』の調味が施されており、スープに濃厚な旨みを与えていた。

 やはり調理法次第なのだなと、リーベがしみじみしている間に朝食は終わった。

「ごちそうさまでした」

 食事が終わると、直ぐさま出立する雰囲気になった。

 リーベはせめて食休みは取りたいと思ったが、この空気の中、そんなことは口が裂けても言えなかった。

 そんな怠惰な彼女に村長が話しかける。

「エルガーくんにもよろしく伝えておいてくれ」
「わかりました――あ! お父さんにも『村長によろしく言え』って言われたんだった!」
「そういうのはさっさと言うもんだろ?」

 ヴァールが苦笑する一方、村長は上機嫌に笑っていた。

「ヴァール、そろそろ」

 フェアが声を潜めて言うと、リーダーは「ああ」と応え、弟子の肩を叩いた。

「俺たちゃ、コイツのお守りをしながら帰んなきゃなんねえから、さっさと出るわ」
「そうか。ケガとかはせんようにな」
「お気を付けて」

 村長の妻が言い添えると、ヴァールはドアの取っ手を握った。

「ああ、そんじゃ、長生きしろよ」
「お元気で」
「バイバイ」
「さようなら!」

  口々に別れの言葉を述べると、冒険者一行は村長宅を後にした。

 そこから村の入り口に至るまでにリーベは「また頼むよ!」「嬢ちゃんには期待してるよ!」と、多くの声援を受けた。彼女は自身を激励する言葉の数々に胸が熱くなるが、ふと悟った。

 これら全てはリーベ・エーアステという冒険者に向けられたものではない。

【断罪】こと、エルガー・ミットライトの娘に向けられたものなのだ。

 この違いを鑑みれば、安易に喜んでなんかいられない。

(体を巡るこの血に賭けて、わたしはみんなの希望にならなければならないんだから)

……決意を新たにしたはいいものの、現実は厳しく、リーベは早々に歩き疲れてしまった。

「ぜえ……ぜえ…………」

 息も絶え絶えになりながらも、彼女は懸命に歩き続けた。

(みんなの希望になるため……お父さんのようになるため…………そのためには、このくらいでへこたれてちゃいけないんだ……!)

「う、ふう……」

  彼女が呼吸を整えていると、先頭を歩いていたヴァールが立ち止まり、振り返る。

「休憩だ」
「も、もうちょっと……」
「休憩だ」

  今度は少し強めに言った。

 怒られているわけではないが、怒られているような気がして、リーベは我を貫くことを諦めた。そうして腰を下ろすと、今まで後方に置いてけぼりにしていた熱が追いついてきたかのように全身が熱くなる。心臓はバクバクとなり、その拍動にあわせて汗が噴き出す。

 リーベは早鐘を打つ心臓を宥めようと水筒を傾けるも、既に空っぽだった。

「あ……」

 補給のためにスタッフに手を伸ばそうとすると、脇からフェアの白く長い指が差し伸べられる。そうしていつも通り魔法で水を生み出したのだ。

「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」

 ちょろちょろと水が溜まっていくのを見守っていると、彼は言う。

「気持ちはわかりますが、あなたにはあなたのペースというものがあります。それを破って得られるものもあるでしょうが、長くは保ちません。怠けない程度に気長に構える方が良いと、私は思いますよ?」
「フェアさん……」

 彼の瞳へ視線を移すと、反対側でフロイデが言う。

「リーベちゃんは十分、頑張ってると思う、よ?」
「フロイデさん……」

 その隣でヴァールが大きな頭で首肯しゅこうした。

「ちょっと前まで食堂で働いてた娘がハイベックスを倒せるまでになったんだ。その実績があるのに、生き急ぐことはねえだろ?」
「……でもわたし、セロン村の……テルドルのみんなのために、少しでも速く強くなりたいの」

 思いの丈を打つけると、彼は実感の籠もった言葉を発した。

「上を向いて歩くヤツなんていねえだろ? 人はいつも、前を見て歩くもんだ」
「おじさん……そうだね。わたしはわたしなんだし、自分の出来ることを精一杯やる方がいいよね」
「そういうこった。だから今は休め。いいな?」

 小さな瞳には穏やかな煌めきが宿っていた。それは彼女の両親の瞳に見られるそれと全く同じもので、リーベは実家に帰ってきたかのような安心を抱いた。

「……うん。そうするよ」

  その優しさに包まれ、リーベはしばし、穏やかな時を過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

処理中です...