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第2章 旅立ちの時
092 ウネルハガネ その③
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「メガ・ファイア!」
この魔法は弾速が遅いという欠点があるが、ターゲットであるカナバミ動かない状態であれば、それも関係なかった。魔弾はカナバミの左半身に衝突し、甲高い音と共に熱波を解き放つ。
肌に熱気を感じつつ、リーベはパートナーに呼びかける。
「フロイデさん!」
「にゃああっ!」
彼が長剣を振るう傍ら、リーベは作戦決行のため、次なる魔法を練り上げる。
スパンと見事に切り落とされた赤熱した金属片。それはカナバミの足下(スライムに足などないが)に墓石のように突き立っている。彼女はそれとカナバミの間に狙いを定め、魔法を放つ。
「ダイマ!」
光の滴は両者の僅かな隙間に潜り込み、金属片の方に触れて炸裂した。
破裂音が耳朶を叩くと同時に、一抱えほどの大きさの金属片がボールのように軽々と宙を舞う。だが最高点に達した途端、自重を思い出したかのようにズシンと落ちた。
その振動を足の裏に感じながら敵を見ると、カナバミはダイマの衝撃にすっかり固まっていた。
「よし!」
成功を喜びつつも、次の魔法の準備をしなければならない。
「うぬぬ……できた、メガ・ファイア!」
再び魔法を放ち、先ほどフロイデが切り落とした場所を赤熱させる。それを彼が切り落として、破片を弾き飛ばしつつ硬化を維持する。それを数回繰り返した時だった。
「あ!」
例によってフロイデがカナバミを斬ると、その白銀の断面にポツンと、象牙色の玉が現れた。それが核の一部であることは考えるまでもない。
「核だ!」
リーベはメガ・ファイアで一気に仕留めようと思ったが、フロイデが待ったを掛ける。
「慎重にいこ……!」
それはつまり、もう一巡、繰り返そうということだ。
彼の指示は安全確実に獲物を仕留める冒険者らしい判断だったが、リーベは歯痒さを感じずにはいられなかった。
それはそうと、この好機を逃すまいと、彼女は急いで魔法を拵える。
「ええい、ダイマ!」
スタッフを掲げ、魔法を放つ。その瞬間、リーベは手元が狂ったのを直感した。
「あ――」
短い声を発する一方、放たれた魔弾は狙いを外し……最悪なことに、破片の向こうに着弾しようとしていた。
バゴオオンッッッッッ!
破裂音と共に破片が弾かれ、リーベの顔面を目掛けて飛んできた。
重厚な金属の塊が高速でこちらに飛んでくる……そんな悍ましい出来事にリーベは悲鳴を上げることさえできずにいた。
「リーベ!」
ヴァールが横合いから刺突を繰り出し、高速で飛翔する物体に切っ先を打つけた。そんな神業によって弾道の逸れた金属片はわたしの顔のすぐ脇を「バギイッ!」と妙な音を立てながら横切っていった。
「あ、ああ……」
そんな出来事に腰の抜けてしまったリーベ、敵の目前であり、目標を仕留めるチャンスであるにもかかわらずへたり込んだ。
そんな彼女を余所にヴァールが相棒に指示を飛ばす。
「フェア!」
「はい! メガ・ファイア!」
呆然と見開かれた視界の中でカナバミの一部が赤熱し、そこに埋め込まれていた核もろともフロイデによって両断された。するとカナバミは僅かに溶けていた部分までをも硬化させ、完全な金属塊となり、静止した。
「……大丈夫か」
ヴァールが手を差し伸べてくる。リーベがその手を取ると腕を引かれて立ち上がる。しかし足腰にうまく力が入らず、すぐに尻をついてしまった。
「ご、ごめん。腰が抜けちゃったみたい……」
「まあ、しゃあねえな。怪我はねえか?」
「う、うん……助けてくれてありがと」
「いいさ」
ヴァールが短く言うと、フェアが安堵を浮かべて頷く。
「ご無事でなによりです」
「リーベちゃんの顔、ちゃんと付いてる」
恐ろしい言葉とは裏腹に、彼は心底ほっとしているようだった。
「それよか、お前ら。結果はあんなだったが、よくやってたぞ」
「ほんと?」
「質の悪い冗談は言わねえよ」
ヴァールの言葉にリーベとフロイデは目を合わせ、微笑みあった。
それから彼女は彼に右手を伸ばす。
「……?」
「勝利のハイタッチですよ。……ハイじゃないけど」
「……う、うん…………」
彼ははにかみつつも、これに応じてくれた。
パン!
そんなことをしている内、足腰に力が入るようになった。ヴァールの手を借りつつ立ち上がると、なんだか力が湧き上がってくるのを感じた。
「なんだか強くなった気がする」
「ぼくも……!」
不思議に思っていると、カナバミの心臓を回収し、ついでに破片を収集していたフェアがほくほく顔で教えてくれる。
「カナバミスライムはその希少性と特異な性質から、『倒すと1年分の経験を得られる』と言われているんです」
「へー」
「そうなんだ……」
弟子たちが感心していると、ヴァールは「まあ、迷信だがな」と苦笑した。
「うし。倒し終わったことだし、加工場の連中を呼ぶか」
そう言うと大きな手をポーチに突っ込み、友呼びの笛を取り出した。
「あ、わたしが――」
「ぼくが――」
声が重なり、わたしとフロイデさんは互いに譲るまいとにらみ合った。その時だった――
「おや!」
突如フェアが大きな声を上げた。
2人たちはもとより、ヴァールまでもがギョッと振り向く。
「どうかしました――ってあああっっ⁉」
振り返った先ではなんと、リーベのスタッフが、燻し銀が、見るも無惨な姿で横たわっていた。珠は砕け、柄はへし折れ、もはやスタッフの体をなしていなかった。
「な、なんで――はっ!」
(そう言えばカナバミの破片が横切った時、いやな音がしていたような……)
「そんな……わたしの燻し銀が」
相棒を失った悲しみが、リーベのあらゆる喜びを貪っていった。
この魔法は弾速が遅いという欠点があるが、ターゲットであるカナバミ動かない状態であれば、それも関係なかった。魔弾はカナバミの左半身に衝突し、甲高い音と共に熱波を解き放つ。
肌に熱気を感じつつ、リーベはパートナーに呼びかける。
「フロイデさん!」
「にゃああっ!」
彼が長剣を振るう傍ら、リーベは作戦決行のため、次なる魔法を練り上げる。
スパンと見事に切り落とされた赤熱した金属片。それはカナバミの足下(スライムに足などないが)に墓石のように突き立っている。彼女はそれとカナバミの間に狙いを定め、魔法を放つ。
「ダイマ!」
光の滴は両者の僅かな隙間に潜り込み、金属片の方に触れて炸裂した。
破裂音が耳朶を叩くと同時に、一抱えほどの大きさの金属片がボールのように軽々と宙を舞う。だが最高点に達した途端、自重を思い出したかのようにズシンと落ちた。
その振動を足の裏に感じながら敵を見ると、カナバミはダイマの衝撃にすっかり固まっていた。
「よし!」
成功を喜びつつも、次の魔法の準備をしなければならない。
「うぬぬ……できた、メガ・ファイア!」
再び魔法を放ち、先ほどフロイデが切り落とした場所を赤熱させる。それを彼が切り落として、破片を弾き飛ばしつつ硬化を維持する。それを数回繰り返した時だった。
「あ!」
例によってフロイデがカナバミを斬ると、その白銀の断面にポツンと、象牙色の玉が現れた。それが核の一部であることは考えるまでもない。
「核だ!」
リーベはメガ・ファイアで一気に仕留めようと思ったが、フロイデが待ったを掛ける。
「慎重にいこ……!」
それはつまり、もう一巡、繰り返そうということだ。
彼の指示は安全確実に獲物を仕留める冒険者らしい判断だったが、リーベは歯痒さを感じずにはいられなかった。
それはそうと、この好機を逃すまいと、彼女は急いで魔法を拵える。
「ええい、ダイマ!」
スタッフを掲げ、魔法を放つ。その瞬間、リーベは手元が狂ったのを直感した。
「あ――」
短い声を発する一方、放たれた魔弾は狙いを外し……最悪なことに、破片の向こうに着弾しようとしていた。
バゴオオンッッッッッ!
破裂音と共に破片が弾かれ、リーベの顔面を目掛けて飛んできた。
重厚な金属の塊が高速でこちらに飛んでくる……そんな悍ましい出来事にリーベは悲鳴を上げることさえできずにいた。
「リーベ!」
ヴァールが横合いから刺突を繰り出し、高速で飛翔する物体に切っ先を打つけた。そんな神業によって弾道の逸れた金属片はわたしの顔のすぐ脇を「バギイッ!」と妙な音を立てながら横切っていった。
「あ、ああ……」
そんな出来事に腰の抜けてしまったリーベ、敵の目前であり、目標を仕留めるチャンスであるにもかかわらずへたり込んだ。
そんな彼女を余所にヴァールが相棒に指示を飛ばす。
「フェア!」
「はい! メガ・ファイア!」
呆然と見開かれた視界の中でカナバミの一部が赤熱し、そこに埋め込まれていた核もろともフロイデによって両断された。するとカナバミは僅かに溶けていた部分までをも硬化させ、完全な金属塊となり、静止した。
「……大丈夫か」
ヴァールが手を差し伸べてくる。リーベがその手を取ると腕を引かれて立ち上がる。しかし足腰にうまく力が入らず、すぐに尻をついてしまった。
「ご、ごめん。腰が抜けちゃったみたい……」
「まあ、しゃあねえな。怪我はねえか?」
「う、うん……助けてくれてありがと」
「いいさ」
ヴァールが短く言うと、フェアが安堵を浮かべて頷く。
「ご無事でなによりです」
「リーベちゃんの顔、ちゃんと付いてる」
恐ろしい言葉とは裏腹に、彼は心底ほっとしているようだった。
「それよか、お前ら。結果はあんなだったが、よくやってたぞ」
「ほんと?」
「質の悪い冗談は言わねえよ」
ヴァールの言葉にリーベとフロイデは目を合わせ、微笑みあった。
それから彼女は彼に右手を伸ばす。
「……?」
「勝利のハイタッチですよ。……ハイじゃないけど」
「……う、うん…………」
彼ははにかみつつも、これに応じてくれた。
パン!
そんなことをしている内、足腰に力が入るようになった。ヴァールの手を借りつつ立ち上がると、なんだか力が湧き上がってくるのを感じた。
「なんだか強くなった気がする」
「ぼくも……!」
不思議に思っていると、カナバミの心臓を回収し、ついでに破片を収集していたフェアがほくほく顔で教えてくれる。
「カナバミスライムはその希少性と特異な性質から、『倒すと1年分の経験を得られる』と言われているんです」
「へー」
「そうなんだ……」
弟子たちが感心していると、ヴァールは「まあ、迷信だがな」と苦笑した。
「うし。倒し終わったことだし、加工場の連中を呼ぶか」
そう言うと大きな手をポーチに突っ込み、友呼びの笛を取り出した。
「あ、わたしが――」
「ぼくが――」
声が重なり、わたしとフロイデさんは互いに譲るまいとにらみ合った。その時だった――
「おや!」
突如フェアが大きな声を上げた。
2人たちはもとより、ヴァールまでもがギョッと振り向く。
「どうかしました――ってあああっっ⁉」
振り返った先ではなんと、リーベのスタッフが、燻し銀が、見るも無惨な姿で横たわっていた。珠は砕け、柄はへし折れ、もはやスタッフの体をなしていなかった。
「な、なんで――はっ!」
(そう言えばカナバミの破片が横切った時、いやな音がしていたような……)
「そんな……わたしの燻し銀が」
相棒を失った悲しみが、リーベのあらゆる喜びを貪っていった。
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