愛脳中毒

じえり

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集められた人たち

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「お金を少し貸してください」
恥を忍んでそう言った俺に中林老人は目を細めた
中林老人はきっと俺を甘やかしてくれると思いながらそれではだめだと思い直す俺もいる
中林老人の家に転がり込んで一週間
ここでゴロゴロ生活しているわけにはいかない
「紀田くんお金借りるって大事やで?」
借りてどうなる?とも思えない
生活を立て直すのにどれぐらいの金が必要か?
「働く気はあるんか?」
「あります」
答えて疑問に思う
本当に働く気があれば死ぬ気で働く気があればとっくに仕事を見つけているはず
何故ぐだぐだ生きているのか?
生きていても何も楽しいことがないから
死なないから生きているレベル
「ちょっとしんどいかもしれんけどわしが知っとるとこでバイトするか?」
バイト?
「金を貸すのはいつでもできるけどな金借り出したら癖になる」
その通りだと思う
「健康か?」
こんな生活者にしてはどこもどうということはないからきっと健康体だ
「肉体労働ですか?」
「いやか?」
「いいえ」
「肉体労働かと言われればそうかもしれん
金を稼ぐのは大変やということや」

次の日マイロの物であろうこましなシャツとチノパンに着替えて中林老人が指定した場所に向かう
集合場所には男女20人ぐらいがいてアイマスクを渡されてバスに乗り込んだ
心地よい揺れとこれまでの憂鬱から解放された俺は不安を抱えながらもぐっすり寝た
どれぐらいバスが走ったのか変わらないが到着したのは鬱蒼とした森の中にある怪しげな真っ白な場所だった
バスから降りた俺達は1列に並ばされ建物内に入る前に携帯や貴金属を預けさせられ名札を渡される 名札には番号が書かれていて俺は8だった
「少々お待ちください」
見た事あるようでないようなスーツの男が恭しく頭を下げる
「何か知ってる?」
隣に座っていた番号4番が心配そうに俺を見る
「何も知らない」
「怖いね」
会話に加わってきたのは10番
「でも一週間10万だから まともな仕事じゃないと思う」
え?一週間10万?破格
「番号を呼ばれた方から健康診断と体力測定があります その後パスされた方のみ面接があり合否が決まりますのでそのつもりで」
「落ちることもあるんですか?」
10番が手を挙げて発言する
「はい」
「ちなみに何人合格とか人数制限ありますか?」
「いいえ 全ての人が合格する事もありますが、全ての人が不合格もあり得ます」
一応にみんな困惑と安堵の入り混じった顔をしている
「面接前に不合格の場合は帰っていただきます」
「またバスに乗るんですか?」
「はい ちなみに日当は一万円です」
「じゃ面接受けて落ちた人はいくらか多めにもらえるんですか?」
「はい 面接と質問項目の記入には半日以上かかるのでここに泊まってもらいます
面接で不合格となる人は滅多にいませんがもしも不合格となった場合には3万円支払われます」
ザワザワとそれぞれが浮き足だった
みんな20歳そこそこの同年代
金に困っている人が集められたようだ
「じゃ1番から5番の方こちらに」
4番が立ち上がり軽く頭を下げた
俺もつられて少し頭を下げる
「6番から12番はこちらに」
「俺達だな」
10番が馴れ馴れしく肩を組んできて俺は面倒くさくて無視を決め込む

健康診断が始まる前に誓約書なるものにサインを求められる
この場所ここで行われた事ここで出会った人について他言無用
もしも守られなかった場合 罰金もしくは刑罰
重すぎやしませんか?それに怪しすぎる
「どういう事ですか?」
「この場所を世間から隔離しているからです」
そんな説明で納得できるはずはない
でもみんな脱落したくないからか疑問も持たずにサインしている
「誰にも言わないという事が難しいですか?
もう少し説明すると
ここでのことが噂になるとこの仕事をしたいという人が殺到してしてしまいます 寝ているだけで一週間10万の報酬を出すんですから ここで仕事できる人は身元のしっかりした人の紹介でしか来れないんです その人達に迷惑は何があっても許されないという事です」
俺の身元じゃなく中林老人の身元が重要だという事らしいそして中林老人に不利益がおこってはいけない
「わかりました」
俺はサインと母印を押して指を拭く

健康診断は体重身長 血液検査と尿検査
体力測定は肺活量とか反復横跳びとか昔小学校でやったスポーツテスト的な物
体力は落ちているとは思わなかったが体重は相当落ちている
体力測定の後に出された謎の飲み物が異様に美味しくておかわりが欲しいぐらいだった 味わったことがない上品で高級な飲み物 
「どうだった?」
4番がわざわざ俺を見つけて声をかけてくる
「どうだろう?」
俺は飲み終わった紙コップを握りつぶしながら辺りを見回す
「合格者はロビーに張り出しています 番号のなかった人は受付で日当を配りますので移動してください」
ゾロゾロと移動が始まって4番が俺の前を歩く
合格者は7人だった 4番10番も合格している
ここで半数以上は落ちたわけだから合格は運だけではないと思う
「合格者の皆さんはこの後軽食を取っていただいてから面接になりますので食堂に向かってください」
食堂に入ると軽食とは思えない料理が長テーブルに並べられている 
どこかの有名ホテルのレストランのブッフェだと言われればそうだろうと思える
だけど椅子はなくて立食らしい
「美味しそう」
4番が俺に皿を渡しながら微笑む
「やっぱり唐揚げは外せない」
そう言って唐揚げを目指して歩き出す
俺はサンドイッチをひと切れ摘んで食べた
なんだこれ?
みずみずしいきゅうりと分厚いハムに濃厚な卵
絶品
「なるべく死語は謹んで下さい」
テーブルの端で笑い声を上げていた男女にスピーカーから注意が飛んだ
監視されているのか
刺激された食欲が萎んでいく
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