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第四章 百物語編
45話目 珍妙バディの大仕事(五)
しおりを挟むそうして、作業すること数時間。牛頭鬼と馬頭鬼という、巨体を生かした力自慢の獄卒によって御神木の切り株は、その荘厳とも言える大きさの根を地表へと露にしていた。―― 時刻はすっかり、真夜中となっていた。
「なぁ、白沢。……僕ら、必要だったか?」
「さぁ……」
久保と白沢の疑問は至極真っ当だろう。勿論、その疑問に答えられる者はいないのだが。
その頃になると、遠巻きに作業を眺めていた煙谷も重い腰を上げて、御神木の近くへ移動していた。木霊と共に、根の状態の確認作業、そしてどこへ引っ越すのかと相談し合っている。
『伐採された御神木は移転した神社に奉納されておりますので、わたくし自身は問題ありません。いつでも祀られている神の元へ舞い戻って来られます』
「そう、それは便利でなにより」
『静かに過ごせられれば、何処でも』
そんな会話をしている彼らを尻目に久保は疲労による睡魔を誤魔化せず、ついにはうつらうつらとし始めた。
真冬とは言え長時間に及ぶ穴掘り作業は思いの外、体を温めたようだ。外気温によって汗が冷やされ、体温が急激に下がる。それも眠気を増長させるのだ。
そんな久保の様子に気付いた煙谷は、木霊との相談を終えたようだ。振り返り、久保に労いの言葉を掛ける。
「さて、助手クンはここまでだ。見届け人としての役割を十分に果たしたからね」
「……わ、分かりました」
「ご苦労さん」
と、その言葉と共に目の前が真っ暗になった。そして、襲い来る例の浮遊感。
それは煙谷による、神隠しからの解放。冷たい地べたに打ち付けた体の痛みと、見慣れた天井。
「……最悪」
仰向けに倒れたまま、ぽつりと呟いた久保。そして、彼の帰りを待っていたかのように、その顔を覗き込む見慣れた面々。
「おかえり、久保くん。随分かかったな」
「……ただいま、戻りました」
真夜中であるにも関わらず、事務所へ顔を出している見藤と猫宮だった。――煙谷の神隠しから解放された久保が落とされたのは、見藤の事務所だったのだ。
見藤に至っては寝間着代わりにしているスウェット姿で、もうそろそろ就寝するはずだったのだろう。そう考えると、申し訳なく思うのが久保だ。
仰向けに倒れたまま、彼は痛みとその申し訳なさから眉を寄せた。
「いたたた……煙谷さん、わざわざここじゃなくても」
「まぁ、とにかく。お疲れ様」
「はい……、ふぁあ ――」
久保を襲うのは、一仕事を終えた解放感と蓄積した疲労。そして、慣れ親しんだ場所と見慣れた顔ぶれ。それに抱く安心感は、再び睡魔を呼び寄せる。――彼は床に仰向けのまま、眠ってしまった。
「あ! おい、小僧!!」
「……これは、落ちたな。完全に」
慌てた猫宮が久保に声を掛けるが、時既に遅し。規則正しい寝息が聞こえて来たのだった。砂埃に汚れた服も、汗に浮いた髪もそのままに。スニーカーの裏には土に混じって、砂利も挟まり事務所の床を汚す。
見藤は気にすることなく、彼を抱き起すと猫宮に合図を送る。すると、猫宮は仕方がないとでもいうような溜め息をつき、彼は火車としての姿をとる。
「ったく、世話が焼けるなァ」
猫宮はそう言うと、久保の服を咥えてソファーへと運ぶ。ソファーへと投げられた久保は起きる気配もなく、今日はこのまま宿泊となるようだ。
見藤は困ったように笑うと、彼に毛布を掛けてやろうと自室へ戻る。
こうして、ひとつ。怪異のお悩みは、助手によって解決へと導かれたのであった。
* * *
煙谷と木霊が訪れた場所――、そこは八十ヶ岳。八十という神々の名を頂戴する、今では廃れた場所だ。認知の残滓ですら、その姿を消した場所。
そこは少し前まで血に祟られた人間の怨霊渦巻く、おどろおどろしい空気が充満した場所であった。しかし、煙谷と獄卒達の働きにより怨霊は悉く地獄へとしょっぴかれたのだ。
唯一残っていたあの怪異も、その姿を消したのだろう、と煙谷は思い至る。なにも、気配を感じないのだ。この場所には何もない。木霊が希望する、静かに過ごすにはうってつけの場所だろう。
「ここであれば比較的、邪魔されず静かに過ごせるはずだよ」
『……些か、静か過ぎやしませんこと?』
煙谷の言葉に、木霊は少しばかり懐疑的な態度を示した。木霊はこの場所の異様さを感じ取ったようだ。しかし、どうして自分がここを勧められたのかを理解したようだ。
煙谷の背後には、牛頭鬼と馬頭鬼が控えている。そのついで言わんばかりに、白沢の姿もあるのだが。牛頭鬼と馬頭鬼は保護された御神木の根本を担ぎ上げて、指示を待っている。あとは、この地に移植するだけである。
その切り株から、小さな苗木が芽を出していることに気付いたのは木霊だけであろう。
木と言うのは根を張る。御神木の木霊が新たに根を張り、居つけば――怪異の残滓すら姿を消した、この八十ヶ岳。再びその名が持つ意味を吹き返すだろう。
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