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第四章 百物語編
49話目 出張、冬景色~河童の一揆~
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いつもの使い古したスーツに着替えた見藤。まだ陽は完全に登っておらず、同室で眠っている久保も起きる気配はない。そして、見藤は荷造りを始めた。
久保を起こさないよう、見藤は仕事道具である木目が美しい木箱をそっと開く。そこには、ススキと鹿が描かれた小さい匣と銀の簪が入れられており、それらは他の道具と違って目を引く。見藤はそれらを確認すると、再び木箱を閉じたのだった。
そうして陽が登り、久保が起き出してきた。既に身支度を終えている見藤を目にした久保は、慌てて自分も身支度と荷造りを始める。
そこでふと、昨晩の食事の席の出来事を思い出したのか――。
「覚えてます?」
「ん? 何をだ?」
「あぁ、いえ。問題ないです」
そう、にこやかに返した久保に、見藤は首を傾げたのだった。
――下手に酒を飲ませたと見藤にバレでもしたら、いつぞやの様に説教をくらうに違いない。
普段、自分の心情を言葉にして示すことがない見藤が、あそこまで素直に言葉と態度で皆に感謝を示していたのだ。特に霧子には愛情を示していた。見藤本人からすれば、顔から火がでる思いだろう。
とはいえ、これに関しては東雲も共犯なのだ。見藤に黙っていてもらわなければ、と後で彼女と口裏を合わせておこうと考えていたのだった。――だが、これまた風情ある旅館にふさわしい朝餉を目にした久保は、口裏合わせのことなどすっかり頭の片隅に追いやられたのだった。
◇
「「「ありがとうございました」」」
そう皆で従業員に礼を伝え、見藤一行は旅館を出立しようと玄関ロビーに集まっていた。各々、荷物をレンタカーへ積み込んでいる。
すると、霧子の様子がどこか、よそよそしいことに気付かない見藤ではない。おずおずと見藤は霧子に声を掛けたのだが、彼女の態度は変わらず。
「……俺が何か、したのか?」
「えぇ」
「えっ」
素っ気ない霧子の返事に驚きの声を上げる見藤。危うく仕事道具の木箱を落としそうになったのか、慌てて木箱を抱え直している。夜中、彼女と展望デッキで顔を合わせた時には何もおかしなことはなかったはずだが、と困惑している様子だ。
そうこうしているうちに霧子は助手席に乗り込んでしまった。何が何だか分からず、ただ茫然と霧子の座る助手席を窓越しに見つめている見藤。
そんな二人を眺めていた東雲は、助け舟を出すつもりで見藤に声を掛けた。昨日、あなたは霧子を口説いていた、と。
「いやぁ、見藤さん。昨日――」
「し、東雲!!」
「むがっ」
しかし、それを久保に止められてしまったのだ。何をするのかと久保に抗議の眼差しを向ける東雲だが、彼の言い分を聞き――。
「「ナンデモナイデス」」
「……??」
口裏を合わせた助手達により、見藤は己がしでかした事を知ることはなかった。
そうして、一行は次なる依頼に向けて出立する。
* * *
「依頼が終わったら迎えに来るからな」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
この出張中、久保は寄りたい場所があるということで一足先に見藤達と別れることになっていた。互いに言葉を交わし、手を振って見送る。霧子と東雲は見藤と猫宮に同行するようだ。
そうして、猫宮の案内のもと。見藤は田園風景が続く片田舎にレンタカーを走らせた。
先日と違って山をひとつ越えただけだと言うのに、この地域は冬でも比較的温暖な気候のようだ。少しだけ窓を開ければ、潮風を感じられ、それほどに海が近いことが伺える。
そんな片田舎の道を走っていると、田園風景から徐々にビニールハウスが立ち並ぶ場所へと移り変わった。すると、猫宮が見藤に合図を送る。
「この辺りか?」
「確か、目印があるはずだ」
見藤が猫宮に尋ねると、彼はこくりと頷いてみせた。そして猫宮は開いた窓から少しだけ顔を覗かせると、くんと鼻を動かした。何か匂いを探っているようだ。
すると、彼は少し進んだ先で車を停めるように見藤に言う。見藤はそれに従い、ビニールハウスがほど近い場所に一旦、車を停めた。
霧子と東雲には車内で待つよう言い残し、見藤は猫宮と共に道へ出る。すると、僅かに香る、独特な植物の匂い。
辺りをよくよく探すと、近くに菖蒲を束ねて作られた棚、その棚にはきゅうりと酒が供えられている。それは本来、夏間近になり、水遊びが始まるような時期に祀られるもののはずだが。
それは冬だと言うのに菖蒲の青々とした色合いそのままに、道端に佇んでいた。
「……こんな時期に」
見藤はそう呟くと辺りを見回した。すると、その菖蒲棚の後方に古びた提灯が一つ、飾られていた。そして、地面に残るヘドロのような悪臭を放つもの。
思わず、見藤と猫宮は顔を顰めた。しかし、何しろこれが“目印”なのだ。
「おんしゃあ、何しゆうがぞね!」
すると突然、背後から大声がした。その土地の方言をそのままに、言葉の勢いがとてつもなく強い。見藤と猫宮は慌てて、振り返りその声の主を見た。
その大声に驚いた霧子は咄嗟に姿を怪異としての長身の女に変え、見藤を守るように立ち塞がる。彼女は車内にいたにも関わらず、霧に包まれ瞬時に見藤の傍へと移動したのだった。
彼は霧子と猫宮を一瞥すると、見藤に視線を戻す。
「猫又……、それに北の怪異まで。そうか、おまんが」
「連れて来たぞ」
猫宮は大声を浴びせられた腹いせのように、ぶっきらぼうにそう言った。
そんな声の主は五十代ほどの男だったが、見藤から視ればその姿はいかにも妖怪が人に化けたというような個性的な風貌であった。しかし、どこか愛嬌のある雰囲気を纏っている。
彼は先ほどの事を詫びると、自分の仕事場だというビニールハウスへと案内してくれた。そこはどうやら、果物などのハウス栽培を手広く行っているようで、一般客向けにパーラーを併設していた。
その事業の巧妙さ具合に見藤と猫宮が目を丸くしていると、霧子と東雲はここぞとばかりに目を輝かせたのだった。彼と似たような風貌の従業員が、霧子と東雲におすすめのパフェを紹介している。
どうやらここは、人に化けた河童達で事業がまかなわれているようだ。
「まぁ、何事も水よね。水はすべてに通じる」
彼はそう自慢げに話してくれた。
――そうして、霧子と東雲が隣の席でパフェに舌鼓を打っている中。見藤と猫宮は、彼と依頼について話を聞いていた。
「儂ら、猿猴もシバテンも……水神様の重税に大いに困っちゅう。どうにか、その知恵をかしてくれんろうか……?」
「水神、ね」
「水神」その言葉を反芻する見藤は少しばかり渋い顔をした。隣でパフェを頬張っていた霧子と東雲は、困り果てている彼のことを気遣ってか、こちらを心配そうに見ている。
そして、聞き慣れない妖怪の名前に首を傾げている東雲には、猿猴とシバテンはこの地域に生息する河童のようなものだと説明しておく。
因みに、彼ら河童、猿猴、シバテンは妖怪の分類上異なると主張する。しかし彼らは若干の差異はあるものの皆、見た目が「河童」そのものであるため、見藤は全てひっくるめて河童と呼んでいるようだ。
そして彼の依頼というのは、こうして人に紛れて暮らしている河童達の主神となる水神――、その水神から要求される税に腹を据えかねている。その重税をどうにかして欲しい、というもの。
河童というものは妖怪なのだが、その傍ら水神の使いであるという説話も多く残っているのだ。
「大体、今は川も汚いし、コンクリで埋められてよ。儂らもこうやって人に紛れて生活するのに精一杯。そんな税金、税金言うたっち、無理な話よ。それに、尻子玉なんて架空の臓器。どうせえ言うがぞね」
「そ、そうか」
河童の愚痴は止まらない。
大昔であれば、河童に相撲で負ければ尻子玉を抜かれて死んでしまう。そして、その尻子玉は水神に納める税金であった、という逸話が根強く残っている。
だが、その尻子玉は架空の臓器である、と現代医療にも通じるような話を河童本人がするとは可笑しな話である。
見藤も驚き半分、呆れ半分といったところで、言葉にはいい表せない複雑な表情を浮かべている。
「今はこうやって、人に化けて畑の担い手をやりゆうけんど。それもいつまで ――」
彼の話を聞くに、どうにも水神とやらは一辺倒のようだ。こうして時代と共に変化を受け入れ、その環境に適応した河童達とは異なり、水神であろうとする「神」の名を持つ怪異。
見藤からすれば、人々の信仰心によって神として祀られる怪異の中でも質が悪いように思えてきたのだろうか。眉間に皺を寄せ、何やら考える素振りを見せている。
そして、猫宮が言っていた「河童の泣き寝入り」とは、重税に苦しんでいることを言っていたのかと腑に落ちた。
時に、妖怪というものは上下関係がはっきりしている。上位の妖怪に従うのは下位の妖怪にしてみれば至極当然の理。それが妖怪と、神の名を持つ怪異であればその力関係は必然的に覆すことは難しいというもの。
いくら認知に存在を左右される怪異と言えど、神の名を持てばそれは自ずと上位の存在となる。
困り果てた彼は意を決したようにその表情を変え、口を開く。
「こうなったら、一揆を起こすしか方法が――」
「おい待て、それはいくらなんでも飛躍しすぎやしないか!?」
「何を言うがぞね! もう儂らは十分、水神様に仕えた! それやのに、御方はまだ儂らから搾り取ろうとする……!」
思いがけない彼の言葉を聞いた見藤は、慌てて制止する。しかし、そんな制止など構わず彼は言葉を続けた。
その切羽詰まった様子は、見藤に事の大きさを知らせるには十分であったようだ。見藤もどうしたものかと、顔を曇らせている。
「大昔と違って、今は人の暮らしに慣れてしもうてよ。――それに人と暮らすがも、悪うないがよ」
先ほどの切羽詰まった様子と打って変わって、彼はそう言って照れくさそうに笑った。
すると、ビニールハウスの入り口を覗く小さな人影が複数見えた。その人影はこちらに向かって手を振っている。そして、その声から分かるに子どものようだ。
「おんちゃーーん! 遊びに来たでー」
「あぁ! 今行くき、ちょっと待っちょき! ――ほんだら、儂は一旦席を外す。一揆を起こすのは、水神様の返答次第やき」
彼はそう言って、その場を後にしたのだった。
久保を起こさないよう、見藤は仕事道具である木目が美しい木箱をそっと開く。そこには、ススキと鹿が描かれた小さい匣と銀の簪が入れられており、それらは他の道具と違って目を引く。見藤はそれらを確認すると、再び木箱を閉じたのだった。
そうして陽が登り、久保が起き出してきた。既に身支度を終えている見藤を目にした久保は、慌てて自分も身支度と荷造りを始める。
そこでふと、昨晩の食事の席の出来事を思い出したのか――。
「覚えてます?」
「ん? 何をだ?」
「あぁ、いえ。問題ないです」
そう、にこやかに返した久保に、見藤は首を傾げたのだった。
――下手に酒を飲ませたと見藤にバレでもしたら、いつぞやの様に説教をくらうに違いない。
普段、自分の心情を言葉にして示すことがない見藤が、あそこまで素直に言葉と態度で皆に感謝を示していたのだ。特に霧子には愛情を示していた。見藤本人からすれば、顔から火がでる思いだろう。
とはいえ、これに関しては東雲も共犯なのだ。見藤に黙っていてもらわなければ、と後で彼女と口裏を合わせておこうと考えていたのだった。――だが、これまた風情ある旅館にふさわしい朝餉を目にした久保は、口裏合わせのことなどすっかり頭の片隅に追いやられたのだった。
◇
「「「ありがとうございました」」」
そう皆で従業員に礼を伝え、見藤一行は旅館を出立しようと玄関ロビーに集まっていた。各々、荷物をレンタカーへ積み込んでいる。
すると、霧子の様子がどこか、よそよそしいことに気付かない見藤ではない。おずおずと見藤は霧子に声を掛けたのだが、彼女の態度は変わらず。
「……俺が何か、したのか?」
「えぇ」
「えっ」
素っ気ない霧子の返事に驚きの声を上げる見藤。危うく仕事道具の木箱を落としそうになったのか、慌てて木箱を抱え直している。夜中、彼女と展望デッキで顔を合わせた時には何もおかしなことはなかったはずだが、と困惑している様子だ。
そうこうしているうちに霧子は助手席に乗り込んでしまった。何が何だか分からず、ただ茫然と霧子の座る助手席を窓越しに見つめている見藤。
そんな二人を眺めていた東雲は、助け舟を出すつもりで見藤に声を掛けた。昨日、あなたは霧子を口説いていた、と。
「いやぁ、見藤さん。昨日――」
「し、東雲!!」
「むがっ」
しかし、それを久保に止められてしまったのだ。何をするのかと久保に抗議の眼差しを向ける東雲だが、彼の言い分を聞き――。
「「ナンデモナイデス」」
「……??」
口裏を合わせた助手達により、見藤は己がしでかした事を知ることはなかった。
そうして、一行は次なる依頼に向けて出立する。
* * *
「依頼が終わったら迎えに来るからな」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
この出張中、久保は寄りたい場所があるということで一足先に見藤達と別れることになっていた。互いに言葉を交わし、手を振って見送る。霧子と東雲は見藤と猫宮に同行するようだ。
そうして、猫宮の案内のもと。見藤は田園風景が続く片田舎にレンタカーを走らせた。
先日と違って山をひとつ越えただけだと言うのに、この地域は冬でも比較的温暖な気候のようだ。少しだけ窓を開ければ、潮風を感じられ、それほどに海が近いことが伺える。
そんな片田舎の道を走っていると、田園風景から徐々にビニールハウスが立ち並ぶ場所へと移り変わった。すると、猫宮が見藤に合図を送る。
「この辺りか?」
「確か、目印があるはずだ」
見藤が猫宮に尋ねると、彼はこくりと頷いてみせた。そして猫宮は開いた窓から少しだけ顔を覗かせると、くんと鼻を動かした。何か匂いを探っているようだ。
すると、彼は少し進んだ先で車を停めるように見藤に言う。見藤はそれに従い、ビニールハウスがほど近い場所に一旦、車を停めた。
霧子と東雲には車内で待つよう言い残し、見藤は猫宮と共に道へ出る。すると、僅かに香る、独特な植物の匂い。
辺りをよくよく探すと、近くに菖蒲を束ねて作られた棚、その棚にはきゅうりと酒が供えられている。それは本来、夏間近になり、水遊びが始まるような時期に祀られるもののはずだが。
それは冬だと言うのに菖蒲の青々とした色合いそのままに、道端に佇んでいた。
「……こんな時期に」
見藤はそう呟くと辺りを見回した。すると、その菖蒲棚の後方に古びた提灯が一つ、飾られていた。そして、地面に残るヘドロのような悪臭を放つもの。
思わず、見藤と猫宮は顔を顰めた。しかし、何しろこれが“目印”なのだ。
「おんしゃあ、何しゆうがぞね!」
すると突然、背後から大声がした。その土地の方言をそのままに、言葉の勢いがとてつもなく強い。見藤と猫宮は慌てて、振り返りその声の主を見た。
その大声に驚いた霧子は咄嗟に姿を怪異としての長身の女に変え、見藤を守るように立ち塞がる。彼女は車内にいたにも関わらず、霧に包まれ瞬時に見藤の傍へと移動したのだった。
彼は霧子と猫宮を一瞥すると、見藤に視線を戻す。
「猫又……、それに北の怪異まで。そうか、おまんが」
「連れて来たぞ」
猫宮は大声を浴びせられた腹いせのように、ぶっきらぼうにそう言った。
そんな声の主は五十代ほどの男だったが、見藤から視ればその姿はいかにも妖怪が人に化けたというような個性的な風貌であった。しかし、どこか愛嬌のある雰囲気を纏っている。
彼は先ほどの事を詫びると、自分の仕事場だというビニールハウスへと案内してくれた。そこはどうやら、果物などのハウス栽培を手広く行っているようで、一般客向けにパーラーを併設していた。
その事業の巧妙さ具合に見藤と猫宮が目を丸くしていると、霧子と東雲はここぞとばかりに目を輝かせたのだった。彼と似たような風貌の従業員が、霧子と東雲におすすめのパフェを紹介している。
どうやらここは、人に化けた河童達で事業がまかなわれているようだ。
「まぁ、何事も水よね。水はすべてに通じる」
彼はそう自慢げに話してくれた。
――そうして、霧子と東雲が隣の席でパフェに舌鼓を打っている中。見藤と猫宮は、彼と依頼について話を聞いていた。
「儂ら、猿猴もシバテンも……水神様の重税に大いに困っちゅう。どうにか、その知恵をかしてくれんろうか……?」
「水神、ね」
「水神」その言葉を反芻する見藤は少しばかり渋い顔をした。隣でパフェを頬張っていた霧子と東雲は、困り果てている彼のことを気遣ってか、こちらを心配そうに見ている。
そして、聞き慣れない妖怪の名前に首を傾げている東雲には、猿猴とシバテンはこの地域に生息する河童のようなものだと説明しておく。
因みに、彼ら河童、猿猴、シバテンは妖怪の分類上異なると主張する。しかし彼らは若干の差異はあるものの皆、見た目が「河童」そのものであるため、見藤は全てひっくるめて河童と呼んでいるようだ。
そして彼の依頼というのは、こうして人に紛れて暮らしている河童達の主神となる水神――、その水神から要求される税に腹を据えかねている。その重税をどうにかして欲しい、というもの。
河童というものは妖怪なのだが、その傍ら水神の使いであるという説話も多く残っているのだ。
「大体、今は川も汚いし、コンクリで埋められてよ。儂らもこうやって人に紛れて生活するのに精一杯。そんな税金、税金言うたっち、無理な話よ。それに、尻子玉なんて架空の臓器。どうせえ言うがぞね」
「そ、そうか」
河童の愚痴は止まらない。
大昔であれば、河童に相撲で負ければ尻子玉を抜かれて死んでしまう。そして、その尻子玉は水神に納める税金であった、という逸話が根強く残っている。
だが、その尻子玉は架空の臓器である、と現代医療にも通じるような話を河童本人がするとは可笑しな話である。
見藤も驚き半分、呆れ半分といったところで、言葉にはいい表せない複雑な表情を浮かべている。
「今はこうやって、人に化けて畑の担い手をやりゆうけんど。それもいつまで ――」
彼の話を聞くに、どうにも水神とやらは一辺倒のようだ。こうして時代と共に変化を受け入れ、その環境に適応した河童達とは異なり、水神であろうとする「神」の名を持つ怪異。
見藤からすれば、人々の信仰心によって神として祀られる怪異の中でも質が悪いように思えてきたのだろうか。眉間に皺を寄せ、何やら考える素振りを見せている。
そして、猫宮が言っていた「河童の泣き寝入り」とは、重税に苦しんでいることを言っていたのかと腑に落ちた。
時に、妖怪というものは上下関係がはっきりしている。上位の妖怪に従うのは下位の妖怪にしてみれば至極当然の理。それが妖怪と、神の名を持つ怪異であればその力関係は必然的に覆すことは難しいというもの。
いくら認知に存在を左右される怪異と言えど、神の名を持てばそれは自ずと上位の存在となる。
困り果てた彼は意を決したようにその表情を変え、口を開く。
「こうなったら、一揆を起こすしか方法が――」
「おい待て、それはいくらなんでも飛躍しすぎやしないか!?」
「何を言うがぞね! もう儂らは十分、水神様に仕えた! それやのに、御方はまだ儂らから搾り取ろうとする……!」
思いがけない彼の言葉を聞いた見藤は、慌てて制止する。しかし、そんな制止など構わず彼は言葉を続けた。
その切羽詰まった様子は、見藤に事の大きさを知らせるには十分であったようだ。見藤もどうしたものかと、顔を曇らせている。
「大昔と違って、今は人の暮らしに慣れてしもうてよ。――それに人と暮らすがも、悪うないがよ」
先ほどの切羽詰まった様子と打って変わって、彼はそう言って照れくさそうに笑った。
すると、ビニールハウスの入り口を覗く小さな人影が複数見えた。その人影はこちらに向かって手を振っている。そして、その声から分かるに子どものようだ。
「おんちゃーーん! 遊びに来たでー」
「あぁ! 今行くき、ちょっと待っちょき! ――ほんだら、儂は一旦席を外す。一揆を起こすのは、水神様の返答次第やき」
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