禁色たちの怪異奇譚 ~ようこそ、怪異相談事務所へ。怪異の困りごと、解決します~

出口もぐら

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第四章 百物語編

49話目 出張、冬景色~河童の一揆~(三)

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「これを頼む」
「はい、分かりました」 

 見藤から東雲に手渡されたのは、銀の簪《かんざし》。その装飾は東雲の目から見ても上等なものだと分かる。東雲はその簪を貰い受けると、本殿にある祭壇の上にそっと置く。
 そして、彼女は祈りを捧げるために手を合わせた。見藤と霧子はそんな彼女を見守る。――つつがなく時間は過ぎる。祈りは届いたのだろうか。

「これで一旦、様子見だな」
「そうね」

 見藤の言葉に霧子が頷く。そして、その様子を遠くから見ていた河童達も事を終えたのだと理解したのか、安堵の表情を浮かべている。

 人からの貢ぎ物を水神がどう受け取ったのか。見藤達が滞在している間にその結果を知ることは出来ない。だが、手は打ったのだ。何かしらの効果は望めるだろう。そして、見藤が考えたもうひとつの手段も功を奏すると良いのだが。
 
 レンタカーまでの短い帰路の途中、見藤は彼に声を掛けた。

「唄を創るといいかもしれない」
「唄ぁ?」
「そうだ。それに踊りを合わせて、地域の皆で一定の時期に踊るんだ」

 見藤の提案に彼は何か思い当たることがあるのか、なるほどと頷いた。

「……そうか、そりゃあ人から水神様に向けた舞の奉納になる、ということやね」
「あぁ」

 そう、昔に河童が人との勝負事とした相撲というのも、相撲は神に奉納する神事であることを踏襲したものだ。それが、唄に変わるだけだ。

 そして、霧子が言うように眷属である妖怪によって捧げされるものより、人からの捧げ物の方がより価値があるのだという。それにより、河童達に課される重税から水神の関心を逸らそうというのだ。

 見藤の意図を汲み取った彼は力強く頷き、そっと口を開いた。

「今後、もしまた重税を課される事があればわしら河童は水神様であっても、刺し違える覚悟がある。それほどまでに、この仕打ちに耐え兼ねちょった……」
「……そうか」
「もう、理由もなく搾り取られるのは願い下げやき」

 彼の言葉に、後ろを歩いて来ていた他の河童達が力強く頷いた。見藤が振り返り、その表情を見ればその覚悟は本物であることが窺える。

 恐らく、彼らがそこまで水神へ反発する理由。それは税とされていたのは、その地域の子ども達であったのだろう。だからこそ、その小さい存在を守ろうと、人に化けて共存という形をとっていたのかもしれない。

「何かしらの動きがあれば、猫宮に知らせてくれ。その方が早いだろう」
「あぁ、分かった! 大いに助かった!」

 そう言って、彼は愛嬌のある笑みを惜しみなく晒していた。見藤もその笑みにつられて、目を細めた。

 見藤が少年の頃に抱いていた淡い夢はひょんな所で密かに形を成していたのだと、知れたことが嬉しかったのだ。



 そうして、河童達と別れを告げた後。見藤は再び車を走らせる。久保と連絡を取り合い、彼を迎えに行く。合流した久保の手には見慣れない手提げ袋があった。

「これ。僕が観光客だって言ったら地元のおばちゃん達から頂いてしまって」
「そうか、貰っておくといい」

 どうやら、この地域の特色だろう。河童といい、人といい、どこか暖かい。その手土産が食べ物だと察したのか、猫宮は久保の肩にぴょん、と飛び乗る。
 久保が中身を見えるようにと手提げを広げてやれば、猫宮は袋の中を覗き込んだ。 

「どれどれ……、うっ!?」

 猫宮の反応を見た見藤が、手提げ袋の中身を覗く。

「文旦だな、まだ時期が少し早いが……。しばらく寝かせておくといい」
「まァた柑橘じゃないか!!」

 すると、見藤はその果物に覚えがあったのか「得したな」と、笑いながら久保を見やる。袋の中には、丸々と育ったおおぶりな黄色い果実《かじつ》がいくつも入れられていた。その果実はこの地域の特産品だ。それは、爽やかな香りを漂わせている。

「美味いぞ」
「それは楽しみですね」

 見藤のその言葉に、今度は久保が期待に満ち溢れた笑みを浮かべた。

 そうして、見藤一向は妖怪達からの依頼を終えた。これにて、四国出張は終わりを迎えるようだ。


* * *

「少しだけ、寄り道してもいいか?」

 見藤はそう言うと、海岸沿いに車を走らせた――。


 どこまでも続く、水平線。細波《さざなみ》が岸へ打ち寄せる音に耳を傾ける。冬の海というものは、どこか寂しさや厳しさを感じさせるのだが見藤にとってはどこか心地よいようだ。

 先程からずっと、細波が奏でる音を聞き入っている。

「ここで、いいか」

 独り言を呟き、手に持っていた小さい木製の匣の蓋を開けた。すると、その匣の中から舞い上がる黒い塵のようなもの。それは認知の残滓だ。
 ススキと鹿が彫られた匣は、放置していればいずれ消えてしまう認知の残滓をその中に留めておくものだ。そして、そこに入っていた認知の残滓は――。

「この願いなら、叶えてやれたか……?」

 『冬の海が見たい』そう言って短い生を終えた怪異のために、見藤は海辺に寄ったのだ。それはさながら、散骨のようだった。

 見藤が何をしているのか、察した霧子は少しだけ寂しそうな表情を浮かべたがすぐに彼の元へ駆け寄る。そして、そっとその手を握ったのだった。霧子の少し冷たい手を、見藤は握り返す。

 風が吹き、匣の中から認知の残滓が舞い上がる。その黒い塵は、風にのって広い海、高い空を渡ることだろう。海と空はどこまでも繋がっている。
 それこそ、生の謳歌という自由を願った彼にふさわしい。見藤はそんな思いをそっと胸の奥にしまう。

 そして、ゆっくり目を伏せた。

「少し、柄にでもなく感傷的だったか……?」
「いいのよ。そのためにここに寄ったんでしょ?太平洋の大海原ならって」
「……まぁ」

 見藤は霧子の言葉に遠慮がちに頷いたのだった。耳に残る、細波の音が少しでも彼らの慰めになればよい。


* * *

 そうして、見藤一行の『出張』と銘打たれた旅行は、終わりを迎えようとしていた。空港のロビーで集う見藤一行。どうやら猫宮は空を駆け、一足先に事務所に戻ったようだ。

「お疲れさん」
「ありがとうございました!楽しい旅行でしたね」
「一応、『出張』だったんだがな」
「あ、そうでした」

 見藤の労いの言葉に久保が返事をしたが、楽しかった記憶に思わず旅行と口走ってしまったようだ。見藤に訂正を入れられて、皆それぞれ笑みを浮かべた。

「まぁ、一先ずは年を越えてからだな」
「そうですね」

 年内に顔を合わせるのは今日が最後になりそうだと、見藤と久保が頷く。東雲は実家の神社の初詣で忙しくするだろうし、久保は帰省こそしないらしいが課題に追われそうだと話していたのだ。

「では、また来年。よいお年を!」
「あぁ、またな」

 そうして、久保と東雲は手を振りながら同じ方向へ歩き出す。見藤と霧子は二人の姿が見えなくなるまで見送っていたのだった。
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