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2010年・秋
第18話「団体戦(秋)~悲しみが痛いよ」
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翌日、大会へ行くと母に告げて家を出たが、私の足取りは重かった。駅までの、僅か二分ほどの道のりさえ長く感じる。
浅井は、きっと今日も早々と到着するだろう。例の時間切れした一局の後、浅井とは特に話していない。昼休みや帰り道では井俣や藤山さんが饒舌に場を盛り上げており、私は存在感を出さずに済んだ。
新宿に着き、山手線に乗り換えようと歩を進めるも、暗鬱な気分は拭えない。ホームに着くとちょうど電車が到着したが、足早に引き返して階段を駆け下りた。
東口の改札を出て、目的もなく地下街のサブナードをうろつく。まだ九時前なのでほとんどの店舗が閉まっていたが、開いていたカフェ・ド・クリエに入店する。大会へはもう行けないなと確信した。
カウンター席に腰かけて可もなし不可もなしのブレンドコーヒーを飲みながら、「申し訳ありませんが、体調がすぐれないので欠席します」という見え見えの嘘で固めたメールを部員たちに送る。浅井には、本日の二戦とも私の代わりに四将として参加してもらうよう付け加えた。
イヤフォンを耳につけ、WALKMANをランダム再生させると、T-BOLANの『悲しみが痛いよ』が流れてきた。
彼らのデビューシングルであるそれは、川島だりあによるノスタルジックなメロディーラインと、愛する人の幸福を願う清浄で繊細な歌詞とが見事に調和した名曲だ。
ゲストギタリストである鈴木英俊――全盛期のZARDやEvery Little Thingなどのギターを手掛けていることで知る人ぞ知る存在――の奏でる、爽やかさと切なさとが同居した独特なギターフレイズが、憂愁に閉ざされた私の胸裏を揺らす。
日曜の朝の地下街は静穏で、ガラス窓を隔てて目に映る人々の足並みがいつもよりも軽やかに見える。彼らを眺めながら、この後どのように一日を潰そうかと思案した。
* *
会場では、案の定部員たちがざわついていた。
浅井や金村さんが気を揉む中、藤山さんは不満を募らせている。
「体調不良なんてどう考えても嘘だろ。昨日は元気に来てたんだからよ。負けたのはアイツだけじゃないのに、勝手すぎるだろ。ふざけんなよ!」
身勝手な仮病を行使した無責任な部長に腹を立てながら、藤山さんが五将の席にどさっと腰を下ろす。
「まあ、あの負け方はショックでしょうけどねえ」
井俣は言葉では庇護しながらも、部長の欠席に対して難色を示しているような表情だ。
「本当に具合悪いのかもしれないだろ。人数足りてんだし、別にいいじゃねえか」
主将の永峰さんが、彼特有のぶっきらぼうな口調で事をおさめようと間に入る。
「人数足りてるとか、そういう問題じゃないだろ。部長のくせに責任感なさすぎだし、ちょっと負けたぐらいですねて休むとかガキかよ」
永峰さんの努力を無視して、藤山さんが応戦する。
「部長として頑張ってきたからこそ悔しいんだろ。それくらい分かってやれないお前のほうがガキに見えるわ」
永峰さんは、愛想のなさとは裏腹に情に厚い一面がある。
ごく稀に大学のキャンパス内でばったり会うと、わざわざ一緒にいた友達と別れて食事に連れて行ってくれたりするし――なかなか部室に顔を出せないことを申し訳なく思っているとのことだった――、団体戦にも毎年できる限り都合をつけて参加してくれている。
「何だと!」
「まあまあ。今度俺からも話しておくから、気持ち切り替えていこうぜ」
観戦に来た白眉さんが、彼らの仲裁に入った。
「そうだよ。あと二戦、なんとか勝って残留しないとな。浅井さんもいることだし、締まって行こうぜ!」
金村さんが元部長らしく取りまとめ、この話は終局した。
浅井は、きっと今日も早々と到着するだろう。例の時間切れした一局の後、浅井とは特に話していない。昼休みや帰り道では井俣や藤山さんが饒舌に場を盛り上げており、私は存在感を出さずに済んだ。
新宿に着き、山手線に乗り換えようと歩を進めるも、暗鬱な気分は拭えない。ホームに着くとちょうど電車が到着したが、足早に引き返して階段を駆け下りた。
東口の改札を出て、目的もなく地下街のサブナードをうろつく。まだ九時前なのでほとんどの店舗が閉まっていたが、開いていたカフェ・ド・クリエに入店する。大会へはもう行けないなと確信した。
カウンター席に腰かけて可もなし不可もなしのブレンドコーヒーを飲みながら、「申し訳ありませんが、体調がすぐれないので欠席します」という見え見えの嘘で固めたメールを部員たちに送る。浅井には、本日の二戦とも私の代わりに四将として参加してもらうよう付け加えた。
イヤフォンを耳につけ、WALKMANをランダム再生させると、T-BOLANの『悲しみが痛いよ』が流れてきた。
彼らのデビューシングルであるそれは、川島だりあによるノスタルジックなメロディーラインと、愛する人の幸福を願う清浄で繊細な歌詞とが見事に調和した名曲だ。
ゲストギタリストである鈴木英俊――全盛期のZARDやEvery Little Thingなどのギターを手掛けていることで知る人ぞ知る存在――の奏でる、爽やかさと切なさとが同居した独特なギターフレイズが、憂愁に閉ざされた私の胸裏を揺らす。
日曜の朝の地下街は静穏で、ガラス窓を隔てて目に映る人々の足並みがいつもよりも軽やかに見える。彼らを眺めながら、この後どのように一日を潰そうかと思案した。
* *
会場では、案の定部員たちがざわついていた。
浅井や金村さんが気を揉む中、藤山さんは不満を募らせている。
「体調不良なんてどう考えても嘘だろ。昨日は元気に来てたんだからよ。負けたのはアイツだけじゃないのに、勝手すぎるだろ。ふざけんなよ!」
身勝手な仮病を行使した無責任な部長に腹を立てながら、藤山さんが五将の席にどさっと腰を下ろす。
「まあ、あの負け方はショックでしょうけどねえ」
井俣は言葉では庇護しながらも、部長の欠席に対して難色を示しているような表情だ。
「本当に具合悪いのかもしれないだろ。人数足りてんだし、別にいいじゃねえか」
主将の永峰さんが、彼特有のぶっきらぼうな口調で事をおさめようと間に入る。
「人数足りてるとか、そういう問題じゃないだろ。部長のくせに責任感なさすぎだし、ちょっと負けたぐらいですねて休むとかガキかよ」
永峰さんの努力を無視して、藤山さんが応戦する。
「部長として頑張ってきたからこそ悔しいんだろ。それくらい分かってやれないお前のほうがガキに見えるわ」
永峰さんは、愛想のなさとは裏腹に情に厚い一面がある。
ごく稀に大学のキャンパス内でばったり会うと、わざわざ一緒にいた友達と別れて食事に連れて行ってくれたりするし――なかなか部室に顔を出せないことを申し訳なく思っているとのことだった――、団体戦にも毎年できる限り都合をつけて参加してくれている。
「何だと!」
「まあまあ。今度俺からも話しておくから、気持ち切り替えていこうぜ」
観戦に来た白眉さんが、彼らの仲裁に入った。
「そうだよ。あと二戦、なんとか勝って残留しないとな。浅井さんもいることだし、締まって行こうぜ!」
金村さんが元部長らしく取りまとめ、この話は終局した。
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