半笑いの情熱

sandalwood

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2010年・冬②

第54話「低俗な環境」

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「お待たせしました」
 しゃくれ店員が、コーヒーとデザートを運んできた。

「おぉ、これはまた……」
 運ばれたデザートを見て、私は思わず吃驚きっきょうする。
 抹茶パフェは相当なヴォリウムで、コーンの付いた抹茶アイスが二つと大量のホイップクリーム、さらにつぶあんや白玉までトッピングされた大変にむつごい一品ひとしなであった。おまけに底のほうでは、コーンフレークらしきものも待機している。
 価格を見ずに注文したが、改めてメニューを開き九百円という表記を目にしたとき、確かに値段相応だと納得した。

「こっちもヤバいわ」
 光蟲も、精彩を欠いた半笑いを浮かべている。
「うっ……」
 彼がオーダーしたプリンアラモードは、私の抹茶パフェを凌駕りょうがする圧倒的なボリュームだった。大きめの皿の上に、リンゴにメロンにキウイにバナナなど大量のフルーツが豪快に、それこそ立錐りっすいの余地もないほどに配されている。プリン自体は申し訳程度に中央にちんまりと佇んでおり、いったい何がメインかわからない。もちろん、大量のホイップとコーン付きのアイスも抜かりない。
 メニューを再度開くと、こちらは千百円。さすがに四桁となると格が違う。

「これ今から食うの?」
 光蟲は間違いなく常人と比べて食べる量は多いと思われるが、さしもの彼も焼肉をたらふく摂取した後では動揺を隠せない様子だった。
「これは蹉跌さてつをきたしましたかね、光蟲先生」
 冗談まじりに茶化しながら、ひとまずアイスが溶ける前に口に含んだ。
「ルノアールだったな」
 光蟲が苦い笑いを浮かべ、ホイップ付きのバナナにフォークを刺して現実を受容した。


「いやぁ、さすがにもうなんも食えないわ」
 腹をさすりながら、光蟲が口にする。
「同じく~」
 なんだかんだで、私も抹茶パフェを全量摂取した。
「明日は一限かぁ」
 光蟲は、木曜日の一限は必修科目のラテン語を履修している。
「二限からだったかな、確か」
 二限は学科の必修科目ではなく一般教養科目で、出欠を取らない授業なのでまず行かないだろう。

「しかし、マジで聞けば聞くほどクソッタレ教師ですなぁ」
 いつからか、長春館で話していた昔話の続きが展開されていた。
「クラスの皆も、なんであんなのを慕っているのか不思議で仕方なかったよ」
 たとえ馬鹿でも、外見が良ければ軽薄な女子生徒たちが自然と群がりそうなものだが、首藤の場合はまるで対蹠たいしょ的であったので、なおのこと不思議なものだった。

「まあ、小学生なんて根本的に無知で軽薄なものだからね。俺も人のことは言えないけどさ」
 半笑いを浮かべながら、パフェが盛られていた皿をテーブルの端に寄せる。
「軽薄なのは大学生も変わらないけど、無知な分だけ小学生のほうがたちが悪いってか」
 半笑いを返しながら、光蟲を真似て空の容器を端に移した。
「そうそう、そういうこと」
 我が意を得たりとばかりに言い、セブンスターに火を点ける。

「でも、上村くんだっけ? わざわざ告げ口しに行くってのもなかなかだよなぁ」
 しゃくれ店員が、空になった容器を下膳げぜんする。
「くだらないよねぇ。まあ、わざわざ余計なことを言う自分も同じくらいくだらないけどさ」
 本音をそのまま伝えることがくだらないことなのかどうか、実のところよくわかってはいなかったが、客観的に見ればそうなのだろう。

「要はそのクラス、いや学校自体が悦弥くんの知的レベルに鑑みると、総じてあまりに低俗だったということだよね。ざっくりと言い過ぎかもしれないけど」
 いつもの半笑いは作らず、光蟲が真面目な表情で要約する。
「一概には言えないけどね。そこそこ真面目で優秀な人も中にはいたし」
 光蟲に合わせ、真剣な顔で返答する。
「でもまあ、自分の能力が劣っていることを自覚しているものだから、大人の力を笠に着てちょっかいを出すしかなかったんだろうな。上村にしろ他の生徒にしろ。そう考えると、ちょっと可哀想だなと思わなくもないわ」
「上村くんも担任の先生も、嫉妬心こじらせて八つ当たりですな」
 
 見慣れた半笑いに戻り、短くなったセブンスターを灰皿にぐりぐりと押し当てた。
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