幽霊列車の夜

月這山中

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食糧危機の車掌

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 ヤマグチは困っていた。

 これで三台目の自動販売機になるというのに、売り切れているのだ。
 おでん缶が。
 ラーメン缶すら売り切れている。

 販売本数を絞っているという噂は聴いていたが、最近乗せた乗客が「テレビで紹介されていた」と言っていた時も嫌な予感がしていたが。
 ヤマグチに食糧危機が迫っていた。

 四台目。秋葉原の一画に置かれた自販機は明かりが消えていた。
 劣化し崩れたプラスチックのディスプレイを見てヤマグチは肩を落とす。

 確保方法が自販機でないといけないという理由はない。
 しかし、どうにか身なりで人間の姿を保っているつもりではあるが、蛍光灯の下に出ればとてもそう見えないことをヤマグチは悟っている。
 監視カメラに記録されてしまうのは生者の世界の秩序を乱してしまうような抵抗がある。
 コンビニは入ったことがない。
 本当はとても気になっている。我慢している。

 五台目。ここもかなり錆が浮いている。
 あきらめて次へ行く。

 小銭はある。乗客が心付けで時折置いていってくれる大事な御金だ。
 稼働しているか怪しい台に投入するなど、むやみに扱うことはできない。

 この霊体との境目が消えた身体が食物を本当に必要としているのかヤマグチには分からない。便所に座ったのもずいぶん前、数十年くらい前のような気がする。が、食事は精神安定のために欲しい。

 六台目と七台目。売り切れ。
 クエスチョンマークが描かれた缶が端にある。博打に好奇心を引きずられそうになりながらヤマグチはその場を後にする。

 ここまで売り切れていることがありえるだろうか。
 あるいは地球の危機が迫っていて、非常食として買い占めた者がいるのではないのか。
 ヤマグチの脳裏に荒唐無稽な思考が過る。

 八台目。あった。
 しかしヤマグチが到達するより先に大学生の集団が自販機を取り囲んだ。そうとう飲んでいるのかやたらと騒いでいる。
 やっと自販機から離れて行った頃には売り切れていた。彼女らは赤い顔でおでん出汁を嗜んでいる。

「コンビニのが旨いね」
「そう?」
「あとで寄ろー」

 そんなことを口々に喋りつつ彼女らは歩き去っていく。
 ヤマグチの心に怒りはなく、ただ空腹の寂しさだけが霊体を支配している。






 幽霊列車は東北まで来ていた。

「まあ、これもいいんですけれど」

 自動販売機が並ぶ古いサービスエリア。
 白いプラスチックのカップに入ったうどんをすすり、ヤマグチは独り呟いた。


  了
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