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死を食らう天使
しおりを挟む最期に携帯で繋がっていた彼に告白をして、彼女は身を投げた。
こうして彼女は幸せの中で命を終えました。
めでたし。
「ふふーん、今日も一つの愛を成就させたわ」
あたしは愛のキューピッド・天之河斗美。遂げられない想いのために戦う天使。
具体的には080もしくは090の電波に乗せてあげるのがあたしの役目。
想いを伝えた相手には、絶対に忘れられないようにしてあげる。
あなたの背中をそっと押してあげるからね♡
「ねえ、電話したいひとはいる?」
電車が通過する。
「あれっ?」
なんとこの少女、あたしの手を避けてしまった。
点字ブロックに倒れ込んだ彼女をギャラリーは遠巻きに眺めてた。
そして今は駅舎の一角で事情聴衆中、ナンデー?と話しかけて来る天使に対してこの一言。
「あ、あんたのせいで死にそうになったんだからね!?」
えー、死にたがってたのになんでー?
「どうしました?」
「すみませんなんでもありません」
スマホで愛の告白までは順調だったのにオカシイナー?
しかしこれも重要なハプニングだったりして?
「気が動転してるみたいですね。僕も昔吸い込まれそうになったことがあって……」
彼女を助けたのは若いリーマン。
左手薬指に指輪は無し!
「ではこれで」
連絡先を置いてさっさと出社してしまったがこれは禁断の恋の予感?
天使大興奮!! 仲良くなるチャンスじゃないのー!?
「だからうるさいっての!」
学校休んで反対の駅まで来ていた今回の『彼女』。
告白相手の幼馴染からの連絡はナッシング。
死にたい度MAX振り切れ状態のまま最寄りのハンバーガー屋で突っ伏している。
「ねーってば、もう一度トライしない?」
「身投げを? イヤに決まってるでしょ」
「そうよー愛する人に電話しながら電車に撥ねられてふっとぶの。超気持ちいいわよ。死に勝る永遠はなし!」
「あーあ、今日はなんでこんな幻覚なんだろう。無視無視」
言いつつカバンから錠剤を出した。ネイルの取れかけた爪で適当に口へ放り込みコーラで流し込む。
「恋の始まりはいつもドキワクするわ~。今度こそ幸せな無理心中をしてね♡」
「まだ消えないの?」
だってあたしは天使だもん。
あなたの幻覚じゃないから。
日が変わって学校、今日はおとなしく登校した彼女。死にたい度は90%くらいカナー。
「連絡してみたら~?」
「言われなくても」
休み時間の廊下でスマホを取り出す彼女。メモしていた先日の若いリーマンつまり今回の『彼氏』候補の番号を打ち込んでいく。
ここが四階以上なら窓から突き落として完遂!なのに残念ながら高さが足りないトホホ。
「黙ってて」
呼び出し音がRRR…と鳴り続ける。一向に通じない。
「あれ? 出ない……仕事中かな」
なんとまたもや大誤算。
彼氏、自分の家で勝手に死んじゃってました。ガーン。
「嘘。嘘でしょ。あ、あんたがやったの……?」
「んな訳ないじゃない。ああー!あっちに憑いてればよかったか~!」
あたしの言葉を聞いた彼女は茫然自失。
天使、動きます。
「ということでやってまいりました駅のホーム~!」
「………」
「ささ、お相手は先に逝っちゃいましたけどグモッといっちゃいましょー!」
電車が入ってくる。今度こそは彼女を旅立たせてあげられるはず。
ところが今度は電車が彼女の身体をすり抜ける。ハァ?
FxxN!! クソ幽霊列車じゃないの!
「今は呼んでないから死神は! あと1分待ってなさい!」
「どちら様ですか」
「天使よ! そんなことはどうでもいいの! 本物の車両持って来なさいよ、あっこら! 乗車しちゃだめだって!」
彼女を追ってサイアクな列車に乗る。
「作品が時代を作る! あたしが世界を作る! あたしの書いたプロットが、現実となる! 現実のスタンダードになる! つまり、あたしが神になるということ!」
こうなったら車掌相手に作家論ぶちまけで気持ちよくなるしかないじゃない。
「たくさん信仰を集めれば神仏っぽいものにはなれますので、まあ手段として間違ってはいませんね」
「でしょう!?」
「信仰者がたくさん居たことで生き返った人もおりますし…」
「やだ、あたしも転生のチャンスある?現世デビューしちゃうのかな!?」
やっば、思ったより気持ちいいわこれ。車掌さん話わかるじゃん。
「ついていけない」
彼女は幽霊列車の窓に突っ伏してる。
「ねえ車掌さんこの列車にリーマン乗ってない? 若くてーつい昨日ー吊っちゃたタイプの人はいらっしゃいませんかー? もっしー?」
「探さなくていいから。知らない人だし」
「あなたは恋に落ちないといけないの。そうじゃないと話が完結しないんだから」
「勝手に決めないでよ」
なにを?
「昨日だって、あんたにそそのかされて私リカに、言いたくなかったこと全部言っちゃって……!」
泣きだす彼女
「いや、女の友情とか知らんし、昨日はあんた幼馴染の彼にフラれて……」
「私はリカに告白したの!」
「は?」
はい?
「そうだ!僕の死にも勝手な意味を付けないでくれ!」
リーマン乗ってました。
「遺書は誰にも読まれず彼の墓に置いて欲しかった。それなのに、なのに結局母さんは……」
「は、はぁ?」
「彼が死んでしまっては僕は生きていけないんだ!」
おーい。なにこの急展開?
うわ、ハズレ轢いたわー
「その言い様はあんまりでは。殺そうとしていた相手とはいえ」
「いーやおかしいわこんなの! リアルじゃない! あたしのカンペキな世界がおかしくなってる!」
「おかしくないと思いますが」
「オスとメス! プラスとマイナス! 互いに足らない部分を補うのが恋愛なのに! これじゃあネタに使えないじゃない! 共感が得られない!」
なんで全肯定車掌もこれには否定敵なん?
「だいたいなに同性好きになってんの!? そんなの、あたし以外の! くっだらないフィクションに毒されてるだけでしょ! そうに決まってんだろ!」
「悲恋の末に心中するなど展開としては使い古されていると、素人ながらに思いますがね。それに死ぬことがスタンダードとなると、人類の繁殖に影響が起きるような」
「はあ? 同性愛もそうじゃない」
やだ天使の爆弾発言止まらな~い。SNS(心霊ネットワークシステムのこと)で晒されちゃうわ。
「代理親を立てるのだって養子を育てるのだって繁殖の一助でしょう。叶わずとも別の道はある」
「不足を補い合うのが愛じゃないの!?」
「誰もが報酬を求めて愛するのではありません。なにもなくても恋慕の権利そのものはあるものです。列車に恋をする人だっておりますし」
なに?
「ちょっと昔まで、いや今でも一部地域での婚姻は政治的に決めるもので……社会が重んじられた。そうした背景があってこそ叶わない悲恋話も機能していたとはいえ、理想の恋愛を他人に押し付けるのもどうでしょうか」
「昔とか今とか関係ないから。リアルじゃないのが問題! リアルに勝るリアリティーなしよ!」
「フィクションは全くの嘘っぱちという意味ではありませんよ」
説教くさ。
「あなたがそこまで固執する理由はなんなのでしょうね。それこそ、あなたが毒されているのでは?」
うっざ。
「アンタと話しても時間の無駄。消えて」
◆
自称天使・天之河の内積が爆発した。
私は咄嗟に車輌を切り離した。最後尾に居てくれたことが幸いだ。
「只今より大きく揺れますのでご乗車の皆さんは……」
「アナウンスしてる場合!?」
連結部にしがみついていた『彼女』候補と『彼氏』候補が叫ぶ。私は彼らを列車の腕で引き上げた。
「参りましたね。他の霊体を取り込んでいます」
天之河は巨大に変化し、車輌を噛み砕いた。その顔はとても天使には見えない。むしろ魚人に近い。
「こんな時に寝てるんですか!?」
「すみません、これでも必死なんですけど」
操縦に必死で私自身は通路の真ん中で倒れ伏している。
霊体の一部である車輌が傷つくとダメージがこちらにも行くのだ。
「肉食の獣が他の生物を食うのと同じで、霊体を食らう者のようですね」
魚の顔が追いついて食らいついた。もう一輌切り離す。これで出力も半分になってしまった。
「もう無理です」
「じゃあ、僕を使ってください!」
「ここで逃げきれなかったら、どうせあいつに食われるだけでしょ!」
乗客の一部が叫ぶ。
「駄目です。ここにいる全員取り込んでもあの物量には勝てませんし、そんなことはしたくない」
あれだけの霊体エネルギーが纏まるのは、強固な感情がつなぎになっている。我々では対抗できない。
「しかしよくあそこまで同調できるもので……あ」
思い付きがうまくいくことは、この世界ではよくあることだ。
私はブレーキを一杯に引いた。
魚の口が裂けた。
彼岸と此岸の中間に散らばっていく。
空気に溶ける者、形を作る物、どちらかの世界へ向かっていく。
『彼女』と『彼氏』は手を取り合い、そして離れた。
散らばった列車を足掛かりに此岸へ向かう彼女。
彼岸の空へ飛んでいく彼氏。
彼女と彼が愛したそれぞれの相手の下へ向かうのだろう。
「とんでもない事をしてしまったような気がします」
電車の後部に追突された死を食らう天使は、食らった感情を纏めることができずエネルギーの川となって闇に散っていった。
数年後。
「今日はやけに重いですね」
「あたしがいるから?」
勝手に乗車している。
天之河斗美は、少し力を失ったのか輝きが薄れていた。天使の羽根もわずかに小さい。
「ちょっとそこまで乗っていくだけよ。まだ成仏する気はないし」
「それが困るんですが」
「転生されるのも困るんでしょ」
転生できるとは限らないが、意思の力というのは侮れない。案外彼女なら成し遂げてしまうかも知れない。
「一応聞いときたいんだけどさ、何言おうとしてたの」
あの日の続きを聴きたかったらしい。
私は恥を忍んで、あの日のくさい説教の続きを始めた。
「現実の一端をなぞって強引に捻じ曲げているようでは、それは創造力ではありません。あなたが神を目指すように、それらは野望や祈りや愛で繋がっているのですから」
「ああ、身をもって体感したぜ……あんたのせいでしょうが」
「世界は混沌として見えるかもしれませんが、意外に繋がっていて、意外に優しいものですよ」
「……あっそ。貴重なご意見として参考にするわー」
列車から飛び立ち、天使は退場した。
了
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