対異世界防衛学園

くノ一

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メインストーリー

38.チェスプレイ

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 俺の宝物が葵に既に何個も消されている。雑誌とか、見つかった後にビリビリに破かれているし、クッションもいつの間にかバレてて、戦場でボロボロにされるし…。何か恨みでも買ったかな。
 しかし、まだたからはある。それさえバレなければ…。
 机の引き出し、そこを開けて中には更に鍵が掛かった固定箱が出てくる。この箱はパスと鍵の二重ロックにしている為、そう簡単には開けられないようにしている。
 まあ、実際は鍵穴はフェイクだけど。
 パスを打ち込んだ後、ロックは解除され箱を開ける。中にはUSBメモリが入っている。
「まだこれは無事みたいだな」
 それを机に差し込む。パソコンと一体化している机だ。USBの情報を開ける。中には大量の写真や動画が入っていた。ここ1、2年で溜め込んだ努力の結晶と言っても良い程のデータが入っている。まあ、その分保存出来る容量があとちょっとしか無いんだけど。
「ふふふ、このデータが無事だった事だけでも安心しないと」
 午前8時前になろうとしている朝方の俺の行動だ。こうでもしないと葵に察知されてゲームオーバー。今は葵は隣で寝ているだろうし、ゆっくりと見物が出来る。
 そう考えてファイルの中を漁っていると、突如となく通話用の着信画面が目の前に出た。
「あ、もうそんな時間だったけ……」
 そう言いつつ、通話に出る。
『出るのおっそいぞ。私を待たせるな』
「もう終わらせたのかよ!?」
 突如となく顔が映り、大きく声を出してきた。相変わらずやな。少しは引きこもり生活やめたらどうなんだよ。
『ハッハッハー。私をなめてもらっては困るよ。この天才プログラマーに掛かれば早いもんよ』
 彼女は自信満々に答える。彼女は『音野白おとのはく』でうちの警備ユニットの司令塔をしている。
「今回も前と同じで良かったけ」
 今からやるのは迎撃ユニットの銃撃戦だ。うちは元々山沿いにある為、特訓する為に作られた施設がいくつもある。その内の一つに『対人用訓練陣地』と呼ばれる広いゆえに障害物が数多く設置されている。
 まあ、俺らはチェス戦争をするだけなんだけど。普通のチェスではなく、数は20対20の迎撃戦。武装は電圧製のペイント弾を使用する。当たり判定は全てで六箇所あり、そこの部分だけの耐久が減れば使用不可になる。
 同体の耐久が0になれば機能停止するし、顔の耐久が0になればメインカメラが使えなくなる。まあそんなところだ。
 障害物が多い中でのチェスだ。ちなみに勝利条件は『相手の迎撃ユニットを全て機能停止する』だ。いわゆるチームデスマッチってところだろう。
『うーんと。あ、同じ同じ。だけど今回勝たせてもらうよ。私だってね、作戦ぐらいはいくらでも思いつくものよ』
 なんだろうか。今回の彼女はなんかやる気に見えるんだけど。まあいいか、頭使ってその策を見破らせてもらうじゃないか。

 薄暗い一本道が続く。この道には男以外いない。いたとしても作業とかで走っているだろう。鉄で出来た道、そして広い空間の空中には各パーツを並べられた鎧らしき物がぶら下がっている。
「なかなかの完成度じゃないの」
 1人の女性が近づいてくる。男は横から来る女性には見る気もなかった。
「この鎧があの子用に再度調整され、最新技術が組み込まれた物だったっけ」
「そうだ。2年前の失敗を繰り返さないように何重にも調整と改良を加えている最中だ」
 男は鎧を見ながら女性に言った。失敗は2度も起こさない。例え、イレギュラーな事があってもだ。男は強く心で決めていた。今の彼には後戻りなど出来ない程に進んでいる。彼はふと思い出したかのように、
「それよりマグラネサ、侵入させていた同志達はどうした。前回の作戦でも参加させていただろう?」
「それが……」
 前回の作戦、学園での時間稼ぎを目的とした作戦で、真の目的は物資と兵力の補充が目的だ。この作戦は最終的に作戦は達成した。マグラネサはすぐに引き返したが、他にも数名学園の生徒として紛れ込ませていたのだ。
「全員、捕まったわ。通信も完璧なはずだったけど……、相手に天才がいたのか、ここ一週間で全員捕まった」
 予想もしてない答えが返ってきた事に俺は動揺した。今後の作戦に支障が出るかもしれない。だが、もしもの為の兵器の補充を行っていた。第一ウェーブではあの大量の兵器を使わない。
「それは少々誤算だったが……まあいい、作戦は続行する。ある程度の日にちは分かっている。その日に合わせて彼女を送ろうではないか」
 彼は薄暗い道の奥を見る。そこからは1人の少女が見ていた。

「そろそろ始まるかな」
「みたいです。彼らは準備に入ったようなので」
 ある屋敷が所有する山がある。そこには色々な訓練施設があり、僕がいるのは実戦訓練と同様の事が出来る『対人用訓練陣地』がよく見える高台の施設にいる。まあ、ここの家は僕の家なんだけど、
「アリサ、今日はどっちが勝つと思う?」
「私は零様かと、どう作戦を練ろうとも白が勝つ事はありません」
 何この子、きっぱりと言ったぞ。うんでもそれはありえそう。いくら天才プログラマーだって、戦術と戦略に優れた彼には勝てないだろうし。
 お、両者が準備に入ってる。迎撃ユニットには電圧式のペイント弾を使用して当たり判定をする。人に当てるだけなら痺れる程度の電流が込められている。科学の進歩ってすごいと感じる。
「ねえねえ、ここは一応安全だよね?」
「何言ってるんですか。ここにあれペイント弾は飛んできますが、魔導シールドが展開されるので大丈夫ですよ」
「そ、そうなのか」
 お茶を口に運びながら、アリサはそう言っている。魔導シールドは物理系を完全にシャットアウトしてくれるものだ。ペイント弾が当たれば少しバチッと音がして消え去る。人が触ったりなどは普通に出来て、あまり害などはない。
 整備班今忙しそうだし、のんびり退屈だなここ。

『あと何分ぐらいかかるの』
『すみません警備隊隊長姉様。動作不良が起きたので全機体の点検をしているので…』
『残り10分ってところです』
『なら急ぎメンテ終わらせなさい』
『『は、はい!』』
 あーここまで整備班との通信が丸聞こえなんだが、まあ言わない方がいいかもしれんな。
 2人の整備班がいたけど実際はもっといる。なにやら動作不良が起きたらしく、今全機体のメンテを兼ねて見ているとの事。
「そんなにメンテ掛かるもんなのか?」
 普通は掛からないはずなんだが。てかこれ何回もやってるけど、時たまに動作不良が発生してたっけ。その時の整備班は大慌てしてた記憶がある。
『普通は終わってるんだけど、どうやら不具合が発生みたい』
 不具合が発生してて、今は長引いてるって感じか。確か整備班は他に警備隊としての任についている。前はその警備隊から武装メイドとして何人か家の掃除してた時あったけど、アリサが来てからすごいダメだしされた事でほとんどのメイドは警備隊の服装に戻している。
 一応今も家の掃除とかは手伝ってもらってるらしいけど、何故警備隊の女性はドジや天然が多いのかは分からない。
『もう少し掛かるだろうから葵起こしたら?』
 気付いたら8時を過ぎている。まだ起きてないのか葵の部屋の扉が開く音を聞いてない。まだ寝ている事が想定される。
「そうしますよ。それまでに整備終わらせる事だからな」
『分かってるよ。まあ私はやる事なんて無いんだけどね』
 それでも警備隊隊長なのかよ。俺は密かに心で叫びながら部屋を後にした。
 廊下に出て、そのまま葵の部屋へと入る。布団からは葵の寝顔が見えた。まだ寝ているのか、さっさと起こさないとな。
「おーい、朝だよ。起きろー」
 葵の前まで来ると彼女を揺さぶるように起こそうとした。
「あと五分……」
 寝ぼけながらもちゃんと言葉を出す。これは布団を剥がさないと起きないだろうなあ。取り敢えず毛布を取り上げないと。
 俺はとっさに毛布を剥がした。布団の中は葵が抱き枕を抱えていた。まあ、見た目は普通だったが……、
「………」
 声も出ずにその抱き枕を持ち上げてみる。そこにプリントアウトされていたのは、
「アニメキャラかなこれ」
 葵にもこんな趣味あったんだな。てかなんかこのキャラ見た事あるんだけど……、ダメだ思い出せない。
「……おはよー」
 今更になって葵は起き上がる。まだ眠いのか獣耳をピクピクと動かしながら目をこすっていた。
 周囲を見渡した後に、俺の手に持っている物に目を向ける。そして数秒同じ体勢でいると、
「……!?!?」
 徐々に顔が赤くなっていき、勢いよく俺が持っていた抱き枕を取り上げた。そしてその抱き枕を俺に見せないように抱きながら、
「ちょ、早く出てって!」
 声を大きく、何かを慌てるかのように叫んだ。この時、何か見てはいけない物を俺は見たような気がした。
「もう8時だし、朝風呂にでも入って少しは目を覚まさせてよ」
 なんかここにいてはいけない、そんな気がしたのでそれだけ言い残して俺は部屋を後にした。
 部屋を葵一人になり、未だにその抱き枕を抱えていた。
「こんな時にこれ見られるなんてね……バカだよね、私」
 一人で静かに呟いていた。
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