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妖怪・銭喰い(ゼニクイ)
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東北にある霊山といわれる恐山に二人の盗賊が妖怪を探し続けていた。
7年の歳月が流れたとき、弟分が幹の太さ直径2メートルはあろうかという大木を見上げ兄貴分に言った。
「兄貴、あそこの木に何かいますぜ」
地上10メートルほどの高さに黒い固まりがのっそりと動いている。唇のような頭と長い胴体から足が左右2本ずつ出ている。遠目にはトカゲのような体型である。
「おお、あれが噂に聞く妖怪・銭喰いだ」
「あれがそっすか? やっと見つけたんですかい? 」
「まあ、見てろ」
兄貴分は虫取り網を体にゆわきつけると、木に近づいて行く。幹にしがみつき登り始めた。銭喰いは体長約1メートル。直径30センチしかない虫取り網に入る訳がない。兄貴分は妖怪に向かって言った。
「銭喰いよ、3センチの大きさになって、動くな」
その一言で銭喰いは一瞬で3センチの大きさになり、動きを止めた。盗賊はいとも簡単に銭喰いを捕獲した。
「指示さえ間違えなければ、これでわしらは大金持ちだ」
盗賊はその銭喰いを虫取りかごに入れ、隠れ家に持ち帰った。
☆
盗賊は日本一銀行の玄関前に来ると虫取りカゴから1センチの銭喰いを取り出した。
「銭喰い、5ミリの大きさになって、銭取ってこい」
銭喰いは5ミリの大きさになると、のしりのしりと体を揺らし、表玄関のドアの隙間から中へ入っていった。1時間ほどして銭喰いが出てきた。銭喰いの腹がたっぷりとふくらんでいた。鉄壁のセキュリティも妖怪にとってはなんてことはない。
「はは、やったぞ。さあ、早いとこ退散だ。銭喰い、1センチの大きさになって動くな」
銭喰いは少しだけ大きくなった。二人は隠れ家に戻る。
「銭喰い、3センチの大きさになって、銭をはき出せ」
銭喰いの口から出ること出ること、金がはき出され、6畳ほどの部屋に1万円紙幣の束が山のようになった。二人はにんまりと顔を見合わせた。一生、遊んでも余るほどの金である。
「こんな沢山の金、トラックでないと、運びきれないなあ」
「大丈夫、また、銭喰いに食わせて小さくするさ」
「銭喰い、銭を食って、小さくなれ」
銭喰いはパクパク紙幣の束を飲み込んでいく。飲み込むと小さくなっていった。そしてどんどん小さくなっていって見えなくなった。
「あれれ、兄貴、見えなくなっちゃいましたぜ」
銭喰いは細菌よりウイルスより小さくなり、やがて原子より小さくなって、電子より小さくなり、そして、地上から、やがて消えた。しばらく、言葉を失っていた兄貴分が初めて声を漏らした。
「あっ、サイズの指定を忘れた… 」
7年の歳月が流れたとき、弟分が幹の太さ直径2メートルはあろうかという大木を見上げ兄貴分に言った。
「兄貴、あそこの木に何かいますぜ」
地上10メートルほどの高さに黒い固まりがのっそりと動いている。唇のような頭と長い胴体から足が左右2本ずつ出ている。遠目にはトカゲのような体型である。
「おお、あれが噂に聞く妖怪・銭喰いだ」
「あれがそっすか? やっと見つけたんですかい? 」
「まあ、見てろ」
兄貴分は虫取り網を体にゆわきつけると、木に近づいて行く。幹にしがみつき登り始めた。銭喰いは体長約1メートル。直径30センチしかない虫取り網に入る訳がない。兄貴分は妖怪に向かって言った。
「銭喰いよ、3センチの大きさになって、動くな」
その一言で銭喰いは一瞬で3センチの大きさになり、動きを止めた。盗賊はいとも簡単に銭喰いを捕獲した。
「指示さえ間違えなければ、これでわしらは大金持ちだ」
盗賊はその銭喰いを虫取りかごに入れ、隠れ家に持ち帰った。
☆
盗賊は日本一銀行の玄関前に来ると虫取りカゴから1センチの銭喰いを取り出した。
「銭喰い、5ミリの大きさになって、銭取ってこい」
銭喰いは5ミリの大きさになると、のしりのしりと体を揺らし、表玄関のドアの隙間から中へ入っていった。1時間ほどして銭喰いが出てきた。銭喰いの腹がたっぷりとふくらんでいた。鉄壁のセキュリティも妖怪にとってはなんてことはない。
「はは、やったぞ。さあ、早いとこ退散だ。銭喰い、1センチの大きさになって動くな」
銭喰いは少しだけ大きくなった。二人は隠れ家に戻る。
「銭喰い、3センチの大きさになって、銭をはき出せ」
銭喰いの口から出ること出ること、金がはき出され、6畳ほどの部屋に1万円紙幣の束が山のようになった。二人はにんまりと顔を見合わせた。一生、遊んでも余るほどの金である。
「こんな沢山の金、トラックでないと、運びきれないなあ」
「大丈夫、また、銭喰いに食わせて小さくするさ」
「銭喰い、銭を食って、小さくなれ」
銭喰いはパクパク紙幣の束を飲み込んでいく。飲み込むと小さくなっていった。そしてどんどん小さくなっていって見えなくなった。
「あれれ、兄貴、見えなくなっちゃいましたぜ」
銭喰いは細菌よりウイルスより小さくなり、やがて原子より小さくなって、電子より小さくなり、そして、地上から、やがて消えた。しばらく、言葉を失っていた兄貴分が初めて声を漏らした。
「あっ、サイズの指定を忘れた… 」
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