1 / 20
1
商魂
しおりを挟む
昨日、15年間勤務した会社が倒産し、俺は失業した。
朝から家で起きる気力もなく寝ていた。何もやる気がなく、そう、夢も希望も失った気がした。そんなすさんだ心を更にかき回すかのように、電話が鳴り出した。無視していたが、何の恨みがあるのか、執拗に鳴っていた。俺は根負けし、仕方なく蒲団から這い出た。
「もしもし田中ですが… 」
「田中安夫様でいらっしゃいますか? 」
若々しいはつらつとした女の声がした。
「は、そうですが… 」
「あなた様はこの度スマランカ王国国王に選ばれました。おめでとうございます」
「はあ……??? 」
俺は新手のキャッチセールスだと直感した。以前、10万円相当のビデオデッキが当たったと電話があり、指定の場所に出かけたことがあった。行ってみたら、デッキは10年前の製品で、画質も悪く見られたものではなかった。しかし、知らぬ間に相手の口車に乗せられ、新製品を買う契約をしてしまった。今、その2台のデッキが応接室にある。
「いや、いらないです。他の方に譲りますよ」
一瞬、沈黙があった。
「それは困ります。投票された256名の有権者に説明がつきません。説得受入担当の私が処罰されます。どうか私を助けてください」
女の声に泣きが入っていた。泣き脅しか、こいつ頭がいかれてるぜ。俺は受話器を置いて切った。すると、しばらくして電話がまた鳴り出した。俺はまた蒲団にもぐりこんだ。ずっと鳴っている。俺は蒲団をかぶった。
昼になって、腹がすいた俺は、やっと蒲団から出て、昼飯を食いに出ようと玄関のドアを開けた。正面に女が頭を深々と下げて立っていた。
「あのう、どちら様でしょうか? 」
俺が聞くと、女は頭を上げた。俺は女の美しさにひっくり返りそうだった。一目惚れとはこのことを言うのだろうか。
「はじめまして、スマランカ王国侍従長ハイダ・クッコと申します。今朝ほどは突然の電話を差し上げ、大変失礼いたしました」
なんと、今度は訪問販売か? 俺はあきれたが、女の美しさに免じて、話だけでも聴いてやろうと思った。部屋の中にクッコと名乗る女を通し、応接ソファーに坐らせた。
「では、早速入国準備の説明から入らせていただきます」
「いや、その前に商品説明してもらわないとね」
「失礼しました。スマランカ王国は国土面積123,456㎡、人口256名、主な産業は家具の輸出、農業は自給自足、…… 」
クッコは熱心に15分ほどしゃべっていたが、彼女の話から国王の待遇はいいこと尽くしで、失業中の俺には願ってもない話だった。
「あなた様がよろしければ、そのまま侍従長として私が、身の回りのお世話をさせていただきます」
俺は彼女の豊かな胸と、ミニスカートから出た白く綺麗な艶のある肌を見て、思わずつばを飲み込んで言った。
「まるで、夢のような話だね」
「はい、お受け取りくださりありがとうございます」
歯並びのいい口で笑ったクッコは、テーブルの上に鞄から取り出した書類を置いた。見ると、納品書と書かれていた。俺は何の納品書かと内訳欄を見ると、スマランカ王国国王になった夢 一式 と書かれていた。
朝から家で起きる気力もなく寝ていた。何もやる気がなく、そう、夢も希望も失った気がした。そんなすさんだ心を更にかき回すかのように、電話が鳴り出した。無視していたが、何の恨みがあるのか、執拗に鳴っていた。俺は根負けし、仕方なく蒲団から這い出た。
「もしもし田中ですが… 」
「田中安夫様でいらっしゃいますか? 」
若々しいはつらつとした女の声がした。
「は、そうですが… 」
「あなた様はこの度スマランカ王国国王に選ばれました。おめでとうございます」
「はあ……??? 」
俺は新手のキャッチセールスだと直感した。以前、10万円相当のビデオデッキが当たったと電話があり、指定の場所に出かけたことがあった。行ってみたら、デッキは10年前の製品で、画質も悪く見られたものではなかった。しかし、知らぬ間に相手の口車に乗せられ、新製品を買う契約をしてしまった。今、その2台のデッキが応接室にある。
「いや、いらないです。他の方に譲りますよ」
一瞬、沈黙があった。
「それは困ります。投票された256名の有権者に説明がつきません。説得受入担当の私が処罰されます。どうか私を助けてください」
女の声に泣きが入っていた。泣き脅しか、こいつ頭がいかれてるぜ。俺は受話器を置いて切った。すると、しばらくして電話がまた鳴り出した。俺はまた蒲団にもぐりこんだ。ずっと鳴っている。俺は蒲団をかぶった。
昼になって、腹がすいた俺は、やっと蒲団から出て、昼飯を食いに出ようと玄関のドアを開けた。正面に女が頭を深々と下げて立っていた。
「あのう、どちら様でしょうか? 」
俺が聞くと、女は頭を上げた。俺は女の美しさにひっくり返りそうだった。一目惚れとはこのことを言うのだろうか。
「はじめまして、スマランカ王国侍従長ハイダ・クッコと申します。今朝ほどは突然の電話を差し上げ、大変失礼いたしました」
なんと、今度は訪問販売か? 俺はあきれたが、女の美しさに免じて、話だけでも聴いてやろうと思った。部屋の中にクッコと名乗る女を通し、応接ソファーに坐らせた。
「では、早速入国準備の説明から入らせていただきます」
「いや、その前に商品説明してもらわないとね」
「失礼しました。スマランカ王国は国土面積123,456㎡、人口256名、主な産業は家具の輸出、農業は自給自足、…… 」
クッコは熱心に15分ほどしゃべっていたが、彼女の話から国王の待遇はいいこと尽くしで、失業中の俺には願ってもない話だった。
「あなた様がよろしければ、そのまま侍従長として私が、身の回りのお世話をさせていただきます」
俺は彼女の豊かな胸と、ミニスカートから出た白く綺麗な艶のある肌を見て、思わずつばを飲み込んで言った。
「まるで、夢のような話だね」
「はい、お受け取りくださりありがとうございます」
歯並びのいい口で笑ったクッコは、テーブルの上に鞄から取り出した書類を置いた。見ると、納品書と書かれていた。俺は何の納品書かと内訳欄を見ると、スマランカ王国国王になった夢 一式 と書かれていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる