8 / 20
1
予知能力
しおりを挟む
書類を両手に抱え運んでいた憲次は、突然左の頬に激痛を感じた。
「あ、まただ! 」
誰かに頬を叩かれる。彼は運んでいた書類の束を廊下の床に下ろし、壁に寄り添うようにしてしゃがみこんだ。今から数時間以内に、自分の身に災難が降り掛かる兆候である。
(一体、何で叩かれるのだろう。上司かな? 恵美かな? ああ、見当もつかないぞ)
背中を壁につけ両膝の中に顔を埋め、小さくなった。万全の防御体制だった。彼には生まれつきの予知能力があり、余地の前には何らかの身体的な痛みを伴った。しかし、この能力の御蔭で今まで何度も危機を乗り越えてきた。
(しかし、ずっと座っているわけにもいかないな)
そのとき、カツカツと足音が近づいてきた。
「大丈夫ですか? 」
呼びかけられて憲次が少しだけ顔を上げると、ミニスカートから伸びた足が見えた。さらに顔を上げると、去年入社したばかりの経理課麻野綾が首を傾げながら見下ろしていた。
「ちょっと目眩がして。でも大丈夫だから」
まさか予知を感じたからなどとは言えない。綾は心配そうにさらに顔を近づけてきた。間近に見る綾の透き通るような白い肌に、ぽーとしたときだった。いきなり頬に激痛が走り、ピシャーという甲高い音が廊下に反響した。
「痛ーい! 」
「ごめんなさーい。でも、蚊が止まっていたの、ほら」
綾は手のひらを見せた。手の上には何もなかった。
「あら、すばしっこい蚊ね。逃げられたみたい」
憲次は目に涙をためて、黙って綾の顔を見つめた。
「やっぱり痛かったですよね」
悪びれた様子も泣く彼女は笑っていた。そのとき、また憲次の足に激痛が走った。なんと、足を踏んづけられる。それも女の足だった。
「この書類運ぶのお手伝いしますわ」
「ああ、悪いね」
急いで立ち上がった途端、憲次は置いてあった書類に近づいた綾に足の甲を踏まれた。
「あああ、痛―! 」
「あ、また、ごめんなさーい」
今度は憲次の尻に激痛が走った。結婚した綾の尻にしかれている姿が見えた。快活な女は嫌いではなかった。こういう痛みならいいかもな、と憲次は笑窪が可愛く出た綾の顔を見ながら思った。
「あ、まただ! 」
誰かに頬を叩かれる。彼は運んでいた書類の束を廊下の床に下ろし、壁に寄り添うようにしてしゃがみこんだ。今から数時間以内に、自分の身に災難が降り掛かる兆候である。
(一体、何で叩かれるのだろう。上司かな? 恵美かな? ああ、見当もつかないぞ)
背中を壁につけ両膝の中に顔を埋め、小さくなった。万全の防御体制だった。彼には生まれつきの予知能力があり、余地の前には何らかの身体的な痛みを伴った。しかし、この能力の御蔭で今まで何度も危機を乗り越えてきた。
(しかし、ずっと座っているわけにもいかないな)
そのとき、カツカツと足音が近づいてきた。
「大丈夫ですか? 」
呼びかけられて憲次が少しだけ顔を上げると、ミニスカートから伸びた足が見えた。さらに顔を上げると、去年入社したばかりの経理課麻野綾が首を傾げながら見下ろしていた。
「ちょっと目眩がして。でも大丈夫だから」
まさか予知を感じたからなどとは言えない。綾は心配そうにさらに顔を近づけてきた。間近に見る綾の透き通るような白い肌に、ぽーとしたときだった。いきなり頬に激痛が走り、ピシャーという甲高い音が廊下に反響した。
「痛ーい! 」
「ごめんなさーい。でも、蚊が止まっていたの、ほら」
綾は手のひらを見せた。手の上には何もなかった。
「あら、すばしっこい蚊ね。逃げられたみたい」
憲次は目に涙をためて、黙って綾の顔を見つめた。
「やっぱり痛かったですよね」
悪びれた様子も泣く彼女は笑っていた。そのとき、また憲次の足に激痛が走った。なんと、足を踏んづけられる。それも女の足だった。
「この書類運ぶのお手伝いしますわ」
「ああ、悪いね」
急いで立ち上がった途端、憲次は置いてあった書類に近づいた綾に足の甲を踏まれた。
「あああ、痛―! 」
「あ、また、ごめんなさーい」
今度は憲次の尻に激痛が走った。結婚した綾の尻にしかれている姿が見えた。快活な女は嫌いではなかった。こういう痛みならいいかもな、と憲次は笑窪が可愛く出た綾の顔を見ながら思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる