窓野枠 短編傑作集 2

窓野枠

文字の大きさ
9 / 20
1

時(とき)

しおりを挟む
 大屋は出張でR駅に降り立った。10年間使っていた腕時計が突然電車の中で止まっていたことに気が付いた。
「ちえ、ついに壊れたか? 絶対壊れないで、狂わない時計ってものがないかなあ」
大屋は腕にはめていた時計をボストンバックにしまった。安物でいいからR駅で時計を買うか。そんなことをずっと電車の中で考えていた。出口で改札の駅員に声を掛けた。
「腕時計が壊れてね。腕時計がほしいんだ。時計店はあるかなあ」
「この町には生憎ないですね。隣町ならあるけど」
「ねえ、きみ、余分な時計は持っていないかな」
駅員は大きく首を振った。約束の時間まで後2時間くらいだろう。早目に行くことにした。改札を出たら真正面に時計店と書かれた看板が目に入った。
「何だ、こんな目の前にあるじゃないか。あの駅員…… 」
 改札を振り返ると、さっきの駅員がすぐ後ろにいた。
「きみ、こんな目と鼻の先に時計店があるのに、隣町まで行かないとないなんてどういうつもりだ」
「まあ、行ってみて下さい」
 大屋は駅員の態度に憤慨しながら、時計店の前に来た。ハラ時計店と言う看板を出してはいるが、ショーウインドーはない。開き戸を開けると、カランとベルがなった。店内はがらんとしている。部屋の真ん中にベッドが置いてある。店内もショーケースは置いていない。店の隅で白髪頭の男が四角い箱を抱えていた。
(そうか、この町の住民は時計を修理して使うから新しい時計は置いていないんだな)
 大屋はそう思ったが、聞くだけでも聞いてみようと思った。
「ごめんください。腕時計はありませんか? 」
「は? 何言ってるんだ、おまえさん? 」
「イヤー、時計が壊れまして、取り敢えず時間がわかればいいのですが」
「おめえ、取り敢えずなんてことを言っちゃいけない」
「すみません。とにかく時間が分かればいいのです」
「じゃ、横になって」
 時計店の中にベッドが何故あるのが分からない。おまけに時計を買いに来て何故ベッドに横たわらなければいけないのか。大屋は威圧的な老人の言うことに従って寝転がった。
「できたよ」
 声に驚いて飛び起きた大屋は老人の顔を見つめた。
「何ができたのでしょうか? 」
「ほらおまえさんのお腹を見てみいな」
 大屋が顔を下に向けると、へその辺りからチクタクチクタクと音が聞こえてきた。大屋がびっくりして老人の顔を見つめた。すると、老人は満面に笑みを浮かべていった。
「なかなかいい腹時計だろう? 結構うまく作れたよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...